酔古堂剣掃 / 集醒・世間の尤物は傾け易し
人生順境難得,獨思從願之漢珠。世間尤物易傾,誰執擊人之如意。
新字:人生順境難得,独思従願之漢珠。世間尤物易傾,誰執撃人之如意。
書き下し
人生順境は得難し、獨り願ひに從ふの漢珠を思ふ。世間の尤物は傾け易し、誰か人を擊つの如意を執らん。
現代語訳
人生で順境はなかなか得られないもので、ひとり願いどおりになるという漢の珠を思い描くばかりです。世の中の類まれに美しいものは人を傾けやすいものですが、いったい誰が、それを打ち砕く如意を手に取るでしょうか。
解説
願いどおりの人生への憧れと、美しいものに身を滅ぼす危うさを並べた対句です。漢珠は、漢水のほとりで神女が鄭交甫に珠を解き与えたという伝説の珠を思わせ、手にしたと思えば消えてしまう夢のたとえとも読めます。尤物は際立ってすぐれたもの、とくに人の心を奪う美女や珍宝を指し、傾けるは国や身を傾ける、滅ぼすという意味です。如意は孫の手に似た道具で、晋の石崇が如意で珊瑚樹を打ち砕いた話が知られています。典拠のとり方には読みの幅がありますが、全体としては、思いどおりの境遇を夢見る心と、心を奪うものを断ち切れない弱さを嘆いた句と受け取れます。欲しいものに心を奪われたとき、それを断つ覚悟が自分にあるかを問いかけてくる言葉です。
この章句が説くこと
欲望執着順境誘惑修身
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