孫子 / 九地篇
投之無所往,死且不北。死焉不得,士人盡力。兵士甚陷則不懼,無所往則固,深入則拘,不得已則鬥。
新字:投之無所往,死且不北。死焉不得,士人尽力。兵士甚陥則不懼,無所往則固,深入則拘,不得已則鬥。
書き下し
之を往く所無きに投ずれば、死すとも且つ北げず。死焉んぞ得ざらん、士人力を尽くす。兵士は甚だ陥れば則ち懼れず、往く所無ければ則ち固く、深く入れば則ち拘り、已むを得ざれば則ち闘う。
現代語訳
行き場のない所に投じられれば、兵は死んでも逃げない。死をも覚悟すれば、兵は力を尽くす。兵は深く窮すればかえって恐れなくなり、行き場がなければ結束が固くなり、深く入れば互いに離れず、やむを得なければ戦う。
解説
極限状況が人の力を引き出すという、九地篇の中核をなす思想である。恐怖は逃げ場があるときに最も強く働き、逃げ場がなくなると消える、という人間観は鋭い。ただしこれを組織運営にそのまま持ち込むのは危うい。孫子が語っているのは戦場という特殊な場であって、日常的に社員を追い込む正当化ではない。むしろ実務で使えるのは逆の読み方だろう。人が力を出し切れないのは、どこかに逃げ道が残っているからかもしれない——自分自身について、そう問うための一句である。