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春秋左氏伝 / 哀公十七年 誰か牛耳を執る

十二月。齊人伐衛。衛人請平。立公子起。執般師以歸。舍諸潞。公會齊侯盟于蒙。孟武伯相。齊侯稽首。公拜。齊人怒。武伯曰。非天子。寡君無所稽首。武伯問於高柴曰。諸侯盟。誰執牛耳。季羔曰。鄫衍之役。吳公子姑曹。發陽之役。衛石魋。武伯曰。然則彘也。宋皇瑗之子麇。有友曰田丙。而奪其兄劖般邑。以與之。劖般慍而行。告桓司馬之臣子儀克。子儀克適宋。告夫人曰。麇將納桓氏。公問諸子仲。初。子仲將以杞姒之子。非我為子。麇曰。必立伯也。是良材。子仲怒。弗從。故對曰。右師則老矣。不識麇也。公執之。皇瑗奔晉。召之。

新字:十二月。斉人伐衛。衛人請平。立公子起。執般師以帰。舎諸潞。公会斉侯盟于蒙。孟武伯相。斉侯稽首。公拝。斉人怒。武伯曰。非天子。寡君無所稽首。武伯問於高柴曰。諸侯盟。誰執牛耳。季羔曰。鄫衍之役。呉公子姑曹。発陽之役。衛石魋。武伯曰。然則彘也。宋皇瑗之子麇。有友曰田丙。而奪其兄劖般邑。以与之。劖般慍而行。告桓司馬之臣子儀克。子儀克適宋。告夫人曰。麇将納桓氏。公問諸子仲。初。子仲将以杞姒之子。非我為子。麇曰。必立伯也。是良材。子仲怒。弗従。故対曰。右師則老矣。不識麇也。公執之。皇瑗奔晋。召之。

書き下し

十二月、齊人、衛を伐つ。衛人、平を請ふ。公子起を立て、般師を執へて以て歸り、諸を潞に舍く。公、齊侯に會して蒙に盟ふ。孟武伯相たり。齊侯稽首す。公拜す。齊人怒る。武伯曰く、「天子に非ずんば、寡君、稽首する所無し」と。武伯、高柴に問ひて曰く、「諸侯盟ふに、誰か牛耳を執る」と。季羔曰く、「鄫衍の役には、吳の公子姑曹。發陽の役には、衛の石魋」と。武伯曰く、「然らば則ち彘なり」と。宋の皇瑗の子麇、友有り、田丙と曰ふ。而して其の兄劖般の邑を奪ひて以て之に與ふ。劖般慍りて行き、桓司馬の臣子儀克に告ぐ。子儀克、宋に適き、夫人に告げて曰く、「麇、將に桓氏を納れんとす」と。公、諸を子仲に問ふ。初め、子仲、將に杞姒の子非我を以て子と為さんとす。麇曰く、「必ず伯を立てよ。是れ良材なり」と。子仲怒りて從はず。故に對へて曰く、「右師は則ち老いたり。麇を識らざるなり」と。公、之を執ふ。皇瑗、晉に奔る。之を召す。

現代語訳

十二月、斉が衛を討った。衛人は和睦を求め、公子起を君に立て、般師を捕らえて斉に引き渡した。斉は般師を連れ帰って潞に置いた。哀公は斉侯(平公)と蒙で会合して盟約した。孟武伯が介添え役を務めた。斉侯は額を地につける最敬礼(稽首)をしたが、哀公は拝礼をしただけだった。斉人は怒った。武伯は言った。「天子に対してでなければ、わが君は稽首はいたしません」。武伯は高柴(子羔、孔子の弟子)に尋ねた。「諸侯が盟約するとき、誰が牛の耳を執るのか」。季羔(高柴)は答えた。「鄫衍の会では呉の公子姑曹が、発陽の会では衛の石魋が執りました」。武伯は言った。「それなら、今回は私彘(武伯の名)だな」。宋の皇瑗(こうえん、右師)の子の麇(きん)には、田丙という友人がいた。麇はその兄の劖般(ざんぱん)の邑を取り上げて田丙に与えた。劖般は怒って国を去り、桓司馬(桓魋)の家臣の子儀克に告げた。子儀克は宋に行き、夫人(景公の母)に告げた。「麇は桓氏を国に呼び戻そうとしています」。景公はこれを子仲(皇野)に尋ねた。これより先、子仲は杞姒の生んだ子の非我を跡継ぎにしようとしたが、麇が「必ず長子を立てるべきです。あれは優れた人材です」と言った。子仲は怒ったが、麇の言に従わずにいた。それで景公にこう答えた。「右師(皇瑗)はもう年寄りです。麇のことは存じません」。景公は麇を捕らえた。皇瑗は晋に亡命した。景公は皇瑗を呼び戻した。

解説

「牛耳を執る」の語源となる場面である。盟約では犠牲の牛の耳を切り、その血をすすって誓った。その耳を執るのは主宰する大国ではなく、実務を担う小国の側の役目だったらしく、高柴が挙げた先例も小国側の者である。孟武伯は「然らば則ち彘なり」と、自分の番だと受け止めた。のちにこの言葉は、集団の主導権を握る意味に転じて今日まで使われている。同じ会合で武伯は、斉侯の稽首に哀公が拝礼で応じたことを「天子に非ずんば、寡君、稽首する所無し」と弁じた。大国の怒りを前にしても、礼の等級を曲げない。後半は宋の話で、麇が友人のために兄の邑を奪ったことが讒言を招き、かつて跡継ぎ問題で麇に意見された子仲が「麇を識らざるなり」と冷たく突き放す。正論を述べた相手への恨みが、いざというとき沈黙という形で返ってくる構図である。

この章句が説くこと

礼主導権外交私情讒言

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