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春秋左氏伝 / 昭公元年 趙孟、一献を請ふ

夏。四月。趙孟。叔孫豹。曹大夫。入于鄭。鄭伯兼享之。子皮戒趙孟。禮終。趙孟賦瓠葉。子皮遂戒穆叔。且告之。穆叔曰。趙孟欲一獻。子其從之。子皮曰。敢乎。穆叔曰。夫人之所欲也。又何不敢。及享。具五獻之籩豆於幕下。趙孟辭。私於子產曰。武請於冢宰矣。乃用一獻。趙孟為客。禮終乃宴。穆叔賦鵲巢。趙孟曰。武不堪也。又賦采蘩。曰。小國為蘩。大國省穡而用之。其何實非命。子皮賦野有死麇之卒章。趙孟賦常棣。且曰吾兄弟比以安。尨也可使無吠。穆叔。子皮。及曹大夫。興拜。舉兕爵曰。小國賴子。知免於戾矣。飲酒樂。趙孟出。曰。吾不復此矣。

新字:夏。四月。趙孟。叔孫豹。曹大夫。入于鄭。鄭伯兼享之。子皮戒趙孟。礼終。趙孟賦瓠葉。子皮遂戒穆叔。且告之。穆叔曰。趙孟欲一献。子其従之。子皮曰。敢乎。穆叔曰。夫人之所欲也。又何不敢。及享。具五献之籩豆於幕下。趙孟辞。私於子産曰。武請於冢宰矣。乃用一献。趙孟為客。礼終乃宴。穆叔賦鵲巣。趙孟曰。武不堪也。又賦采蘩。曰。小国為蘩。大国省穡而用之。其何実非命。子皮賦野有死麇之卒章。趙孟賦常棣。且曰吾兄弟比以安。尨也可使無吠。穆叔。子皮。及曹大夫。興拝。舉兕爵曰。小国頼子。知免於戻矣。飲酒楽。趙孟出。曰。吾不復此矣。

書き下し

夏、四月、趙孟・叔孫豹・曹の大夫、鄭に入る。鄭伯兼ねて之を享す。子皮趙孟に戒ぐ。禮終はりて、趙孟瓠葉を賦す。子皮遂に穆叔に戒げ、且つ之を告ぐ。穆叔曰く、「趙孟一獻を欲す。子其れ之に從へ」と。子皮曰く、「敢へてせんや」と。穆叔曰く、「夫の人の欲する所なり。又何ぞ敢へてせざらん」と。享するに及び、五獻の籩豆を幕下に具ふ。趙孟辭し、子產に私して曰く、「武冢宰に請へり」と。乃ち一獻を用ふ。趙孟客為り。禮終はりて乃ち宴す。穆叔鵲巢を賦す。趙孟曰く、「武堪へざるなり」と。又采蘩を賦して曰く、「小國は蘩為り、大國省穡して之を用ゐば、其れ何ぞ實に命に非ざらん」と。子皮野有死麇の卒章を賦す。趙孟常棣を賦し、且つ曰く、「吾が兄弟比して以て安んず。尨も吠えざらしむべし」と。穆叔・子皮、及び曹の大夫、興ちて拜し、兕爵を舉げて曰く、「小國子に賴りて、戾を免るるを知れり」と。酒を飲みて樂しむ。趙孟出でて曰く、「吾此を復びせざらん」と。

現代語訳

夏四月、趙孟(趙武)・叔孫豹・曹の大夫が鄭に入った。鄭伯はまとめて彼らを饗応した。子皮が趙孟に饗応の日取りを告げに行った。告知の礼が終わると、趙孟は『詩』の「瓠葉」を賦した(質素なもてなしを望む意)。子皮は続いて穆叔(叔孫豹)にも日取りを告げ、あわせて趙孟の様子を話した。穆叔は言った。「趙孟は一献の簡素な礼を望んでいる。あなたはそれに従いなさい」。子皮は言った。「そんなことをしてよいものでしょうか」。穆叔は言った。「あの方自身が望んでいることだ。何をためらうことがあろう」。饗応の日になると、鄭は卿に対する五献の礼の器を幕の下に準備していた。趙孟はそれを辞退し、子産にそっと言った。「私、武は冢宰(子皮)にお願いしておいたのです」。そこで一献の礼を用いた。趙孟が主賓であった。饗応の礼が終わると、宴になった。穆叔が「鵲巣」を賦した(趙孟を鵲の巣に住まう主にたとえた)。趙孟は言った。「私にはとても堪えられません」。穆叔はまた「采蘩」を賦して言った。「小国は白蓬(祭祀に供える質素な草)のようなものです。大国が惜しんで大切に用いてくだされば、どうして命令に従わないことがありましょう」。子皮は「野有死麇」の最終章を賦した(乱暴に扱わないでほしいとの意)。趙孟は「常棣」を賦し、「われわれ兄弟の国々が親しんで安らかにしていれば、むく犬に吠えさせないようにもできましょう」と言った。穆叔・子皮・曹の大夫は立ち上がって拝礼し、兕の角の杯を掲げて言った。「小国はあなたに頼って、罪を免れることができるとわかりました」。酒を飲んで楽しんだ。趙孟は退出して言った。「私はもうこのような宴に出ることはあるまい」。

解説

虢の会の帰途、晋の趙孟と魯の叔孫豹らが鄭で饗応を受けた場面である。鄭は卿に対する正式な五献の礼を用意したが、趙孟は「瓠葉」を賦して簡素な一献を望み、実際にそれに改めさせた。形式どおりの厚遇を辞退し、質素なもてなしを求めたところに、盟主の執政としての謙抑がうかがえる。宴では『詩』の章句を賦し合う賦詩が行われる。穆叔は「鵲巣」「采蘩」で晋を主と仰ぎ小国を大切にしてほしいと願い、子皮は「野有死麇」で乱暴に扱わないでほしいと訴える。趙孟は兄弟の親しみを歌う「常棣」で応え、諸国が睦めば外敵を寄せつけないと答えた。直接の言葉でなく詩句を借りて意思を伝え合う、春秋外交の典型的な姿である。趙孟の最後の一言「吾此を復びせざらん」は死期を悟ったかのような響きを持ち、この年の冬の死と呼応する。遠回しな表現で互いの立場を確かめ合うやり取りは、儀礼の場での言葉の力を示している。

この章句が説くこと

賦詩謙抑外交礼饗応

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