尚書 / 君牙
民心罔中,惟爾之中。夏暑雨,小民惟日怨咨。冬祁寒,小民亦惟日怨咨。厥惟艱哉!
書き下し
民の心は中罔し、惟れ爾の中なり。夏の暑雨に、小民惟れ日に怨咨す。冬の祁寒にも、小民亦惟れ日に怨咨す。厥れ惟れ艱きかな。
現代語訳
民の心には自ら定まった中正がなく、汝の中正を基準とするのである。夏の暑さや長雨には、民は毎日恨み嘆く。冬の厳しい寒さにも、民はまた毎日恨み嘆く。民を治めることは、まことに難しいことである。
解説
「夏の暑雨に小民日に怨咨し、冬の祁寒にも亦日に怨咨す」は、民は夏には暑さと雨を、冬には寒さを嘆き、いつも何かを恨んでいるという、民の暮らしの苦しさと移ろいやすい心をありのままに述べた句である。だからこそ民を治めるのは難しく、民の心には定まった基準がないので、上に立つ者自身が中正を保ってその基準とならねばならないと説く。礼記緇衣篇にもこの句が引かれ、為政者の心構えとして重んじられた。現場の不満は、季節が変わるように形を変えて絶えず生まれる。それを責めずに受け止め、自らが揺るがぬ基準となることが、上に立つ者の務めである。本篇は東晋期に伝わった古文尚書に属し、後世の編纂とみる説が有力である。
関連する章句
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尚書・君牙其の艱きを思いて以て其の易きを圖れば、民乃ち寧し。
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尚書・君牙爾が身克く正しければ、敢えて正しからざる罔し。
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尚書・君陳上の命ずる所に違ひて、厥の好む攸に従ふ。爾克く典を敬し徳に在らば、時れ乃ち変ぜざる罔く、允に大猷に升らん。惟れ予一人、多福を膺受せん。其れ爾の休、終に永世に辞有らん。」
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尚書・君牙嗚呼(ああ)!丕いに顕らかなるかな、文王の謨。丕いに承くるかな、武王の烈。我が後人を啓き佑け、咸く正を以てして欠くる罔し。爾惟れ敬みて乃の訓を明らかにし、用て先王に奉じ若へ。文・武の光命に対揚し、前人に追配せよ。』王若のごとく曰く、『君牙よ、乃惟れ先正に由り、旧典時れ式れ、民の治乱は茲に在り。乃の祖考の行ふ攸に率ひ、乃の辟の乂むる有るを昭らかにせよ。』
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尚書・君牙心の憂危たること、虎の尾を蹈み、春冰を渉るが若し。
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尚書・君牙王若(かく)のごとく曰く、『嗚呼(ああ)!君牙よ、惟れ乃の祖乃の父、世々忠貞に篤く、王家に服労し、厥の成績有り、太常に紀さる。惟れ予小子、文・武・成・康の遺緒を嗣ぎ守るは、亦惟れ先正の臣、克く左右して四方を乱めしによる。
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