初学訓 / 巻之五
一およそ、人は、若き時より老に至るまで、惡しき友に近づかず、益ある師友を求め擇びて近づくべし。人に交るに、謙りて、わが才智を以て人にほこらず、古の聖人の道を學び、わが心を修め、愚なる心の惑をさりて、知を明らかに開き、仁心をふかく保ち、孝を先として、人倫をあつく愛し、日々に、わが力にしたがひて、善を行ひておこたらず、常に、人に益あることをなして、人を妨げず、惡道を畏れ敬ひ、身を終るまで、天地の道にしたがひ仕へ奉るべし。人となれる者、一生の間つとむべき道此外に更にあるべからず。老いては同じことするならひなれば、かへすがへす申し侍る。天道は必ずおそるべし、侮るべからず。
新字:一およそ、人は、若き時より老に至るまで、悪しき友に近づかず、益ある師友を求め択びて近づくべし。人に交るに、謙りて、わが才智を以て人にほこらず、古の聖人の道を学び、わが心を修め、愚なる心の惑をさりて、知を明らかに開き、仁心をふかく保ち、孝を先として、人倫をあつく愛し、日々に、わが力にしたがひて、善を行ひておこたらず、常に、人に益あることをなして、人を妨げず、悪道を畏れ敬ひ、身を終るまで、天地の道にしたがひ仕へ奉るべし。人となれる者、一生の間つとむべき道此外に更にあるべからず。老いては同じことするならひなれば、かへすがへす申し侍る。天道は必ずおそるべし、侮るべからず。
書き下し
一およそ、人は、若き時より老に至るまで、悪しき友に近づかず、益ある師友を求め択びて近づくべし。人に交るに、謙りて、わが才智を以て人にほこらず、古の聖人の道を学び、わが心を修め、愚なる心の惑をさりて、知を明らかに開き、仁心をふかく保ち、孝を先として、人倫をあつく愛し、日々に、わが力にしたがひて、善を行ひておこたらず、常に、人に益あることをなして、人を妨げず、悪道を畏れ敬ひ、身を終るまで、天地の道にしたがひ仕へ奉るべし。人となれる者、一生の間つとむべき道此外に更にあるべからず。老いては同じことするならひなれば、かへすがへす申し侍る。天道は必ずおそるべし、侮るべからず。
現代語訳
およそ人は、若いときから年老いるまで、悪い友に近づかず、益のある師や友を求め選んで近づくべきです。人と交わるには、へりくだって、自分の才知で人に誇らず、昔の聖人の道を学び、自分の心を修め、愚かな心の迷いを去って、知を明らかに開き、仁の心を深く保ち、孝を先として、人々を厚く愛し、日々、自分の力に応じて善を行って怠らず、常に人に益のあることをして、人を妨げず、悪の道を畏れ慎み、生涯を終えるまで、天地の道に従って仕えるべきです。人として生まれた者が、一生の間努めるべき道は、このほかにはありません。年老いては同じことを繰り返すのが習いなので、くれぐれも申し上げます。天道は必ず畏るべきもので、侮ってはいけません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『文武訓』武訓下仁者は、将となりても人を多くころさず。しからば将たること数代なりとも、何ぞ害あらんや。若不仁にして人を多くころしたる人は、三世にかぎらず、一代将となりても、其子孫断絶せし人、古今其ためし多し。天道不仁をにくみ給ふこと、これを以て知るべし。其理たがはず、うたがふべからず。天道おそるべし、あきらかなり。
-
『五常訓』巻之二・仁之上いたりて不仁にして、又愚なりと云ふべし。人の子として、親に事へずして、親の用にたたず、かへりて親にそむき、不孝にして親を苦むるが如し。されば親によく事ふるを孝とし、親に背くを不孝とす。天地によく事ふるを仁とし、天地に背くを不仁とす。仁と孝とは一理なり。天地の恩と父母の恩とは同じ。父母に事ふる心を以て、天地に事ふるは仁なり。天地に事ふる心を以て、父母に事ふるは孝なり。又天理にそむきて人欲を行ふは、我が父母に不孝にして、他人の父母を親むが如し。かへすがへす、ただ人はあだなる世の迷を悟りて、大恩をうけて人と生れ、身をよせたる処の、いたりて貴き天地の道に朝暮したがひ、身を終るまで天道を畏れつつしみて、天に事へ奉るべき事にこそあれ。
-
『五常訓』巻之二・仁之上仁の性にしたがへば、五倫を愛する道自ら行はる。中庸に、性にしたがふを道と云ふ、是なり。仁は性なり。五倫を愛するは道なり。天地より生れつきたる仁の性にしたがひて、五倫の道を行ふが、天地につかへ奉る孝にて、人の道なり。是即仁なり。人の道とする所、さらに此外に有るべからず。次に禽獣草木を愛するも、亦仁の内の事なり。天地は万物の父母なれば、人倫を愛し、次に万物を愛するも、亦天地につかふる道なり。
-
『五常訓』巻之一・総論昔もろこしの斉の宣王は、一牛を殺すを情なく思ひ、助けられしは、誠に惻隠の心、善心の発なり。されども、わが国の多くの人民の飢寒をすくはず。是牛を愛する仁心はありながら、其仁心をおしひろめて、万民に及ぼす工夫なくして、民を飢寒せしむ。火のはじめてもえ出でたるを打消したるが如し、物を焼くことあたはず。およそ人の善を行はずして、不善をするは、皆其善心あるをおしひろめざるなり。善をするは、皆善心の内にあるを、外におしひろむるなり。親に事ふるに、親を愛する一念あるは善なり。これをおしひろむれば、大孝にいたる。もし是をすてて、おしひろめざれば、不孝となる。自余も皆此類なり。故に善と悪とは、此心をおしひろむると、おしひろめざるとに有り。
-
『慎思録』巻之四君子の道、親を親しみ民を仁しみ物を愛する者は、義有り。蓋し親と民と物と、三者は皆天の生ずる所にして、愛育する所なり。是を以て吾が天に事ふるの道は、当に天の愛する所を厚くすべし。吾の之を親しみ之を仁しみ之を愛する者は、乃ち天心に順ひて之に事ふる所以なり。此れ一義と為す。且つ三者は本是れ天地の生ずる所にして、吾と一気同体なり。所謂民は吾が同胞、物は吾が与なり。是れ厚くせざるべからず。故に吾の之を親しみ之を仁しみ之を愛する者は、乃ち吾が気類を厚くする所以なり。此れ一義と為す。然れども二義有りと雖も、之を要するに皆是れ天に事ふるの道なり。人子の親に事ふるの道も、亦た此に猶し。蓋し人の子為る者は、父母の生む所を厚くし、父母の愛する所を愛す。是れ兄弟を宜しくすれば、則ち親に事ふるの道なり、一義と為す。又克く兄弟に友なるは、此れ同気を厚くするなり、是れ一義と為す。然れども其の友愛此の如くなれば、則ち是れ父母も亦た之を悦楽す。此れも亦た親に事ふるの道なり。故に二者は、之を要するに皆是れ親に事ふるの事なり。夫れ仁人の親に事ふるや、天に事ふるが如く、天に事ふること親に事ふるが如し。蓋し仁孝は一理なり。天に事ふると親に事ふると、其の事異なりと雖も、然れども其の心同じく、其の理一なり。
-
『五常訓』巻之二・仁之上一天によく事ふる道を仁とし、よく事ふる人を仁人と云ふ。親によく事ふる道を孝とし、よく事ふる人を孝子と云ふ。仁人の天によく事ふるは仁なり。孝子の親によく事ふるは孝なり。礼記に、仁人の親に事ふるは、天に事ふるが如く、天に事ふるは、親に事ふるが如し。是故に、孝子は身を成すといへり。親に事ふるには、愛をおもくし、天に事ふるには、敬をおもくす。愛敬を尽して、天に事へ、親に事ふるは、其身の徳行の成就する道なれば、これを身を成すと云ふ。天は地を統ぶ。地は天の内にあり。故に天道をいへば、地道は其内にあり。天に事ふれば、地に事ふるも、其内にあり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る