新序 / 善謀第十
乃洗沐往見張耳、陳餘,遣行見燕王,燕王問之,對曰:「賤人希見長者,願請一巵酒。」已飲,又問之。復曰:「賤人希見長者,願復請一巵酒。」與之酒。卒曰:「王知臣何欲?」燕王曰:「欲得而王耳。」卒曰:「君知張耳、陳餘何人也?」燕王曰:「賢人也。」曰:「君知其意何欲?」曰:「欲得其王耳。」趙卒笑曰:「君未知兩人所欲也。夫武臣、張耳、陳餘杖馬䇿,下趙數十城,此亦各欲南面而王,豈為卿相哉?夫臣與主,豈可同日道哉?顧其勢始定,未敢三分而王。且以長少先立武臣為王,以持趙心,今趙地已服,此兩人亦欲分趙而王,時未可耳。今君囚趙王,此兩人名為求趙王,實欲燕殺之,此兩人分趙自立。夫以一趙尚易燕,况兩賢王左提右挈,執直義而以責不直之弱,燕滅無日矣。」燕王以為然,乃遣趙王,養卒為御而歸,遂得反國,復立為王,趙卒之謀也。
新字:乃洗沐往見張耳、陳余,遣行見燕王,燕王問之,対曰:「賤人希見長者,願請一巵酒。」已飲,又問之。復曰:「賤人希見長者,願復請一巵酒。」与之酒。卒曰:「王知臣何欲?」燕王曰:「欲得而王耳。」卒曰:「君知張耳、陳余何人也?」燕王曰:「賢人也。」曰:「君知其意何欲?」曰:「欲得其王耳。」趙卒笑曰:「君未知両人所欲也。夫武臣、張耳、陳余杖馬策,下趙数十城,此亦各欲南面而王,豈為卿相哉?夫臣与主,豈可同日道哉?顧其勢始定,未敢三分而王。且以長少先立武臣為王,以持趙心,今趙地已服,此両人亦欲分趙而王,時未可耳。今君囚趙王,此両人名為求趙王,実欲燕殺之,此両人分趙自立。夫以一趙尚易燕,況両賢王左提右挈,執直義而以責不直之弱,燕滅無日矣。」燕王以為然,乃遣趙王,養卒為御而帰,遂得反国,復立為王,趙卒之謀也。
書き下し
乃ち洗沐して往きて張耳・陳餘に見え、行を遣られて燕王に見ゆ。燕王之に問う。對えて曰く、賤人希に長者を見る。願わくは一巵の酒を請わん、と。已に飲む。又た之に問う。復た曰く、賤人希に長者を見る。願わくは復た一巵の酒を請わん、と。之に酒を與う。卒曰く、王臣の何をか欲するかを知るか、と。燕王曰く、而の王を得んと欲するのみ、と。卒曰く、君張耳・陳餘の何人なるかを知るか、と。燕王曰く、賢人なり、と。曰く、君其の意何をか欲するかを知るか、と。曰く、其の王を得んと欲するのみ、と。趙の卒笑いて曰く、君未だ兩人の欲する所を知らざるなり。夫れ武臣・張耳・陳餘馬策を杖き、趙の數十城を下す。此れ亦た各ミ南面して王たらんと欲す。豈に卿相を爲さんや。夫れ臣と主と、豈に日を同じくして道う可けんや。顧ミ其の勢い始めて定まり、未だ敢えて三分して王たらず。且つ長少を以て先ず武臣を立てて王と爲し、以て趙の心を持す。今趙地已に服す。此の兩人も亦た趙を分かちて王たらんと欲す。時未だ可ならざるのみ。今君趙王を囚う。此の兩人名は趙王を求むと爲すも、實は燕の之を殺さんことを欲す。此の兩人趙を分かちて自立せん。夫れ一趙を以てすら尚お燕を易んず。况んや兩賢王左に提げ右に挈え、直義を執りて以て不直の弱きを責むるをや。燕滅ぶること日無からん、と。燕王以て然りと爲し、乃ち趙王を遣る。養卒御と爲りて歸る。遂に國に反るを得、復た立ちて王と爲る。趙の卒の謀なり。
現代語訳
そこで身を清めて張耳と陳余に会い、行かせてもらって燕王に会った。燕王がこれに尋ねた。答えて言った。「卑しい者はめったに立派な方にお会いしません。どうか一杯の酒をいただきたい」。飲み終えた。また尋ねた。また言った。「卑しい者はめったに立派な方にお会いしません。どうかもう一杯いただきたい」。酒を与えた。兵は言った。「王は私が何を望んでいるかご存じか」。燕王は言った。「お前の王を取り戻したいだけだろう」。兵は言った。「君は張耳と陳余がどういう人かご存じか」。燕王は言った。「賢人だ」。「君はその心が何を望んでいるかご存じか」。「その王を取り戻したいだけだろう」。趙の兵は笑って言った。「君はまだ二人の望みをご存じない。そもそも武臣・張耳・陳余は馬の鞭を手にして、趙の数十城を下しました。この者たちもそれぞれ南面して王になりたいのです。どうして大臣で満足しましょう。そもそも臣と主とを、同じ日に語れましょうか。ただ、その勢いがまだ定まったばかりで、あえて三分して王とはならなかった。そのうえ年長順にまず武臣を立てて王として、趙の心を保っただけです。いま趙の地はすでに服しました。この二人もまた趙を分けて王になりたい。時がまだ来ていないだけです。いま君は趙王を捕らえている。この二人は名目では趙王を求めていますが、実は燕がこれを殺すことを望んでいます。この二人が趙を分けて自立するのです。そもそも趙一つでさえ燕を軽んじています。まして二人の賢王が左右から手を取り合い、正義を掲げて筋の通らない弱い国を責めるとなれば。燕が滅びるのは日を数えるまでもありません」。燕王はそのとおりだと思い、趙王を返した。下働きの兵が御者となって帰った。そのまま国に帰ることができ、ふたたび立って王となった。趙の兵の謀である。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『智囊』辯才・廝養卒趙王武臣、韓広を遣わして燕に至らしむ。燕人因りて広を立てて燕王と為す。趙王、張耳・陳余と北のかた地を略して燕の界に至る。趙王、間に出で、燕軍の得る所と為る。燕将之を囚え、与に趙の地を半ばに分かたんと欲し、乃ち王を帰さんとす。使者十輩、往けば輒ち殺さる。張耳・陳余、之を患う。廝養卒有り、其の舎中に謝して曰く、「吾、公の為に燕に説き、王と載せて帰らん」。舎中皆笑う。養卒、燕の壁に走り、燕将に問いて曰く、「臣の何をか欲するを知るか」。燕将曰く、「若は趙王を得んと欲するのみ」。曰く、「君、張耳・陳余の何如なる人なるかを知るか」。燕将曰く、「賢人なり」。曰く、「其の志の何をか欲するを知るか」。曰く、「王を得んと欲す」。養卒笑いて曰く、「君未だ此の両人の欲する所を知らざるなり。夫れ武臣・張耳・陳余、馬を杖きて趙の数十城を棰下にし、此れも亦た各おの南面して王たらんと欲す。豈に卿相と為りて終わらんと欲せんや。夫れ臣と主と、豈に同日にして道う可けんや。顧うに其の勢い初めて定まり、未だ敢えて参分して王たらず。且つ少長を以て、先ず武臣を王として、以て趙の心を持す。今趙の地已に服す。此の両人も亦た趙を分かちて王たらんと欲す。時未だ可ならざるのみ。今乃ち趙王を囚う。此の両人、名は趙王を求むと為すも、実は燕の殺すを欲す。此の両人趙を分かちて自立せば、夫れ一趙を以てすら尚お燕に易し。況んや両賢王を以て左に提げ右に挈え、殺王の罪を責むれば、燕を滅ぼすこと必せり」。燕将以て然りと為し、乃ち趙王を帰す。養卒、御と為りて帰る。
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『新序』善謀第十趙地亂る。武臣・張耳・陳餘趙地を定め、武臣を立てて趙王と爲す。張耳を相と爲し、陳餘を將軍と爲す。趙王間ミ出でて、燕軍の得る所と爲る。燕之を囚え、與に其の地を三分せんと欲す。乃ち王を歸さん、と。使者至れば、燕輒ち之を殺し、以て固く地を求む。張耳・陳餘之を患う。厮養卒有り其の舍中の人に謝して曰く、吾公の爲に燕を說き、趙王と載せて歸らん、と。舍中の人皆な之を笑いて曰く、使者往くこと十輩にして死す。若何を以てか能く王を得ん、と。厮養卒曰く、若の知る所に非ず、と。
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史記 張耳陳余列伝人をして陳王に報ぜしむ。陳王大いに怒り、尽く武臣等の家を族し、而して兵を発して趙を撃たんと欲す。陳王の相国房君諫めて曰く、「秦未だ亡びずして武臣等の家を誅せば、此れ又一秦を生ずるなり。因りて之を賀し、急ぎ兵を引きて西のかた秦を撃たしむるに如かず」と。陳王之を然りとし、其の計に従ひ、武臣等の家を宮中に徙系し、張耳の子敖を封じて成都君と為す。陳王使者をして趙を賀せしめ、趣やかに兵を発して西のかた関に入らしむ。張耳・陳餘武臣に説きて曰く、「王の趙に王たるは、楚の意に非ず。特だ計を以て王を賀するのみ。楚已に秦を滅ぼさば、必ず兵を趙に加へん。願はくは王西に兵する毋く、北のかた燕・代を徇へ、南のかた河内を収めて以て自ら広くせよ。趙南に大河に拠り、北に燕・代有らば、楚秦に勝つと雖も、必ず敢て趙を制せず」と。趙王以て然りと為し、因りて西に兵せず、而して韓広をして燕を略し、李良をして常山を略し、張黶をして上党を略せしむ。韓広燕に至る。燕人因りて広を立てて燕王と為す。趙王乃ち張耳・陳餘と北のかた地を燕の界に略す。趙王間に出で、燕軍の得る所と為る。燕将之を囚へ、与に趙の地の半ばを分かたんと欲し、乃ち王を帰さんとす。使者往けば、燕輒ち之を殺して以て地を求む。張耳・陳餘之を患ふ。廝養の卒有りて其の舎中に謝して曰く、「吾公の為に燕に説き、趙王と載せて帰らん」と。舎中皆笑ひて曰く、「使者往くこと十余輩、輒ち死す。若何を以て能く王を得ん」と。乃ち燕の壁に走る。燕将之を見る。燕将に問ひて曰く、「臣が何をか欲するを知るか」と。燕将曰く、「若は趙王を得んと欲するのみ」と。曰く、「君は張耳・陳餘の何如なる人なるかを知るか」と。燕将曰く、「賢人なり」と。曰く、「其の志の何をか欲するかを知るか」と。曰く、「其の王を得んと欲するのみ」と。趙の養卒乃ち笑ひて曰く、「君は未だ此の両人の欲する所を知らざるなり。夫れ武臣・張耳・陳餘は馬箠を杖つきて趙の数十城を下す。此れ亦各々南面して王たらんと欲す。豈に卿相と為りて己を終へんと欲せんや。
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史記 張耳陳余列伝夫れ臣と主と豈に日を同じくして道ふべけんや。顧だ其の勢初めて定まり、未だ敢て参分して王たらず。且く少長を以て先づ武臣を立てて王と為し、以て趙の心を持す。今趙の地已に服す。此の両人も亦趙を分かちて王たらんと欲するも、時未だ可ならざるのみ。今君乃ち趙王を囚ふ。此の両人名は趙王を求むと為すも、実は燕の之を殺さんことを欲す。此の両人趙を分かちて自ら立たん。夫れ一趙を以てするすら尚ほ燕を易しとす。況んや両賢王の左提右挈して、王を殺すの罪を責むるをや。燕を滅ぼすは易し」と。燕将以て然りと為し、乃ち趙王を帰す。養卒御と為りて帰る。李良已に常山を定め、還りて報ず。趙王復た良をして太原を略せしむ。石邑に至る。秦兵井陘を塞ぎ、未だ前む能はず。秦将詐りて二世の使と称し、人をして李良に書を遺らしむ。封ぜずして曰く、「良嘗て我に事へて顕幸を得たり。良誠に能く趙に反きて秦の為にせば、良の罪を赦し、良を貴くせん」と。良書を得て、疑ひて信ぜず。乃ち還りて邯鄲に之き、益々兵を請はんとす。未だ至らずして、道に趙王の姊の出でて飲むに逢ふ。従ふこと百余騎。李良望み見て、以て王と為し、道の旁に伏謁す。王の姊酔ひ、其の将を知らず、騎をして李良に謝せしむ。李良素より貴し。起ちて、其の従官に慚づ。従官に一人有りて曰く、「天下秦に畔き、能ある者先づ立つ。且つ趙王は素より将軍の下に出づ。今女児乃ち将軍の為に車を下らず。請ふ追ひて之を殺さん」と。李良已に秦の書を得て、固より趙に反かんと欲するも、未だ決せず。此に因りて怒り、人を遣はして追ひて王の姊を道中に殺さしめ、乃ち遂に其の兵を将ゐて邯鄲を襲ふ。邯鄲知らず、竟に武臣・邵騒を殺す。趙人多く張耳・陳餘の耳目為る者あり。故を以て脱出するを得たり。其の兵を収め、数万人を得。客に張耳に説く有りて曰く、「両君は羈旅にして、趙に附かんと欲するは難し。独り趙の後を立て、扶くるに義を以てせば、功を就すべし」と。乃ち求めて趙歇を得、立てて趙王と為し、信都に居らしむ。李良兵を進めて陳餘を撃つ。陳餘李良を敗る。李良走りて章邯に帰す。
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戦国策・秦并趙北向迎燕秦趙を并せ、北のかた燕に向かいて迎う。燕王之を聞き、人をして秦王を賀せしむ。使者趙を過ぐるに、趙王之を繋ぐ。使者曰く、「秦・趙一と為れば、天下服せん。茲の趙に命を受くる所以の者は、秦の為なり。今臣秦に使いするに、趙之を繋げば、是れ秦・趙郄有るなり。秦・趙郄有らば、天下必ず服せずして、燕命を受けざらん。且つ臣の秦に使いするは、趙の燕を伐つに妨げ無し」と。趙王以て然りと為して之を遣る。使者秦王に見えて曰く、「燕王窃かに秦の趙を并すを聞き、燕王使者をして千金を賀せしむ」と。秦王曰く、「夫れ燕無道なれば、吾趙をして之を有たしめん、子何ぞ賀するや」と。使者曰く、「臣聞く、趙の全かりし時、南は隣として秦と為り、北は曲陽を下して燕と為り、趙広さ三百里にして、秦と相距つこと五十余年なり、秦に反勝する能わざりし所以の者は、国小さくして地取る所無ければなり。今王趙をして北のかた燕を并せしめば、燕・趙力を同じくし、必ず復た秦に受けざらん。臣切に王が為に之を患う」と。秦王以て然りと為し、兵を起こして燕を救えり。
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史記 張儀列伝願はくは大王の計を定めよ」と。趙王曰く、「先王の時、奉陽君権を専らにし勢を擅にし、先王を蔽ひ欺き、独り事を擅綰し、寡人は師傅に居属して、国の謀計に与からず。先王群臣を棄て、寡人年幼く、祀を奉ずるの日新たなり、心固より竊かに疑ふ、以為へらく一たび従して秦に事へざるは、国の長利に非ずと。乃ち且に心を変じ慮を易へ、地を割きて前過を謝して以て秦に事へんと願ふ。方に将に車を約して趨り行かんとするに、適々使者の明詔を聞く」と。趙王張儀を許し、張儀乃ち去る。北のかた燕に之き、燕の昭王に説きて曰く、「大王の親しむ所は趙に如くは莫し。昔趙襄子嘗て其の姊を以て代王の妻と為し、代を并はせんと欲し、代王と句注の塞に遇はんことを約す。乃ち工人をして金斗を作為せしめ、其の尾を長くし、以て人を撃つべからしむ。代王と飲み、陰かに廚人に告げて曰く、『即し酒酣にして楽しまば、熱啜を進め、反して闘りて以て之を撃て』と。是に於いて酒酣にして楽しむ、熱啜を進め、廚人進みて斟み、因りて反して闘りて以て代王を撃ち、之を殺す、王の脳地に塗る。其の姊之を聞き、因りて笄を摩して以て自ら刺す、故に今に至るまで摩笄の山有り。代王の亡ぶるは、天下聞かざる莫し。夫れ趙王の很戾にして親無きは、大王の明らかに見る所なり、且つ趙王を以て親しむべしと為すか。趙兵を興して燕を攻め、再び燕の都を囲みて大王を劫し、大王十城を割きて以て謝す。今趙王已に澠池に入朝し、河間を効して以て秦に事ふ。今大王秦に事へずんば、秦甲を雲中・九原に下し、趙を駆りて燕を攻めしめば、則ち易水・長城は大王の有に非ず。且つ今時趙の秦に於けるは猶ほ郡県のごときなり、敢へて妄りに師を挙げて以て攻伐せず。今王秦に事へば、秦王必ず喜び、趙敢へて妄動せず、是れ西に彊秦の援け有りて、南に斉趙の患ひ無し、是の故に願はくは大王孰々之を計れ」と。

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