新序 / 善謀第九
宫之奇諫曰:「晉之使者,其幣重,其辭卑必不便於虞。語曰:『脣亡則齒寒矣。』故虞、虢之相救,非相為賜也。今日亡虢;而明日亡虞矣。」公不聴,遂受其幣而借之道,旋歸。四年,反取虞。荀息牽馬抱璧而前曰:「臣之謀如何?」獻公曰:「璧則猶是,而吾馬之齒加長矣。」晉獻公用荀息之謀而禽虞,虞不用宫之奇謀而亡,故荀息非覇王之佐,戰國并兼之臣也,若宫之奇則可謂忠臣之謀也。
新字:宫之奇諫曰:「晉之使者,其幣重,其辞卑必不便於虞。語曰:『脣亡則齒寒矣。』故虞、虢之相救,非相為賜也。今日亡虢;而明日亡虞矣。」公不聴,遂受其幣而借之道,旋帰。四年,反取虞。荀息牽馬抱璧而前曰:「臣之謀如何?」献公曰:「璧則猶是,而吾馬之齒加長矣。」晉献公用荀息之謀而禽虞,虞不用宫之奇謀而亡,故荀息非覇王之佐,戦国并兼之臣也,若宫之奇則可謂忠臣之謀也。
書き下し
宮之奇諫めて曰く、晉の使者、其の幣重く、其の辭卑し。必ず虞に便ならず。語に曰く、脣亡ぶれば則ち齒寒し、と。故に虞・虢の相い救うは、相い賜を爲すに非ざるなり。今日虢を亡ぼさば、明日虞を亡ぼさん、と。公聽かず、遂に其の幣を受けて之に道を借す。旋りて歸る。四年、反りて虞を取る。荀息馬を牽き璧を抱きて前みて曰く、臣の謀如何、と。獻公曰く、璧は則ち猶お是のごとし。而れども吾が馬の齒は加ミ長ぜり、と。晉の獻公荀息の謀を用いて虞を禽らう。虞は宮之奇の謀を用いずして亡ぶ。故に荀息は覇王の佐に非ず、戰國并兼の臣なり。宮之奇の若きは則ち忠臣の謀と謂う可きなり。
現代語訳
宮之奇が諫めて言った。「晋の使者は、その贈り物が重く、その言葉が低い。必ず虞のためになりません。ことわざに『唇が亡べば歯が寒い』とあります。だから虞と虢が互いに救い合うのは、互いに恩を施しているのではありません。今日虢を滅ぼせば、明日は虞を滅ぼすでしょう」。公は聞かず、そのまま贈り物を受けて道を貸した。晋はひとまず帰った。四年後、引き返して虞を取った。荀息は馬を牽き璧を抱いて進み出て言った。「臣の謀はいかがでしたか」。献公は言った。「璧はこのとおりだ。しかし私の馬は歯が伸びたな」。晋の献公は荀息の謀を用いて虞を捕らえた。虞は宮之奇の謀を用いずに滅びた。だから荀息は覇王の補佐ではなく、戦国の併呑の臣である。宮之奇のような者こそ、忠臣の謀というべきである。
解説
この章句が説くこと
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葉隠・聞書第一御縁組(ごえんぐみ)の時、何某(なにがし)一分(いちぶん)を申し達し候。この事、若き衆(しゅう)よく心得(こころえ)置くべき事なり。その身(み)気味(きみ)よく思うて、云(い)ふべき事を云うて腹切(はらき)りても本望(ほんもう)と思ふべし。よくよく了簡(りょうけん)候へ、何の益(えき)にも立たぬ事なり。我(われ)かやうの事を云うて腹切りても本望と思ふは、なるほど聞(きこ)えたり。曲者(くせもの)などと思ふは以(もっ)ての外(ほか)なる取違(とりちが)ひなり。まづ申し出でたる事その詮(せん)なく、我が身は引き取り、御養育(ごよういく)も仕(つかまつ)らず、追付(おっつ)け御死去(ごしきょ)なされ候に、御看病(ごかんびょう)も仕らず、残念千万(ざんねんせんばん)なり。気過(きす)ぎなる人は多分(たぶん)誤(あやま)る所なり。総(そう)じてその位(くらい)に至らずして諫言(かんげん)するは却(かえ)つて不忠(ふちゅう)なり。誠(まこと)の者ならば、我が存(ぞん)じ寄りたる事を似合(にあ)ひたる人に潜(ひそ)かに内談(ないだん)して、その人の思ひ寄りにさせて云へば、その事調(ととの)はるなり。これ忠節(ちゅうせつ)なり。もし、内談にてその人請(う)け合はずば、また外(ほか)の人にも内談し、とかく色々心遣(こころづか)ひをして、その事さへ調はるる様にすれば、大忠節(だいちゅうせつ)も知れぬ様にして居るものなり。幾人(いくにん)に内談しても、埒(らち)明かざる時は力に及ばず、その分(ぶん)にて打ち過ぎ、または起こし立て起こし立てすれば、多分叶(かな)ふものなり。我こそ曲者と云はるる名聞(みょうもん)ばかりにて、我が手柄(てがら)にするゆゑ調はざるなり。申し出でたる事益には立たず、人に難(なん)ぜられ、我が身を崩(くず)したる人数多(あまた)これあるなり。畢竟(ひっきょう)真(しん)の志(こころざし)なきゆゑなり。我が身を一向(いっこう)に捨て捨てて、主君の上(うえ)どうなりとも好き様にとさへ思へば、紛(まぎ)るる事はこれなく候なり。
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