新序 / 雜事第五
子張見魯哀公,七日而哀公不禮,託僕夫而去曰:「臣聞君好士,故不逺千里之外,犯霜露,冒塵垢,百舍重趼,不敢休息以見君,七日而君不禮,君之好士也,有似葉公子髙之好龍也,葉公子髙好龍,鈎以寫龍,鑿以寫龍,屋室雕文以寫龍,於是夫龍聞而下之,窺頭於牖,拖尾於堂,葉公見之,棄而還走,失其魂魄,五色無主,是葉公非好龍也,好夫似龍而非龍者也。今臣聞君好士,故不逺千里之外以見君,七日不禮,君非好士也,好夫似士而非士者也。詩曰:『中心藏之,何日忘之。』敢託而去。」
新字:子張見魯哀公,七日而哀公不礼,託僕夫而去曰:「臣聞君好士,故不遠千里之外,犯霜露,冒塵垢,百舎重趼,不敢休息以見君,七日而君不礼,君之好士也,有似葉公子高之好竜也,葉公子高好竜,鈎以写竜,鑿以写竜,屋室雕文以写竜,於是夫竜聞而下之,窺頭於牖,拖尾於堂,葉公見之,棄而還走,失其魂魄,五色無主,是葉公非好竜也,好夫似竜而非竜者也。今臣聞君好士,故不遠千里之外以見君,七日不礼,君非好士也,好夫似士而非士者也。詩曰:『中心蔵之,何日忘之。』敢託而去。」
書き下し
子張魯の哀公に見ゆ。七日にして哀公禮せず。僕夫に託して去りて曰く、臣聞く、君士を好むと。故に千里の外を遠しとせず、霜露を犯し、塵垢を冒し、百舍趼を重ね、敢えて休息せずして以て君に見ゆ。七日にして君禮せず。君の士を好むや、葉公子高の龍を好むに似たる有り。葉公子高龍を好み、鈎に以て龍を寫し、鑿に以て龍を寫し、屋室雕文して以て龍を寫す。是に於いて夫の龍聞きて之に下る。頭を牖に窺かせ、尾を堂に拖く。葉公之を見て、棄てて還り走り、其の魂魄を失い、五色主無し。是れ葉公は龍を好むに非ざるなり。夫の龍に似て龍に非ざる者を好めるなり。今臣君の士を好むと聞く。故に千里の外を遠しとせずして以て君に見ゆ。七日にして禮せず。君は士を好むに非ざるなり。夫の士に似て士に非ざる者を好めるなり。詩に曰く、中心に之を藏す、何れの日か之を忘れん、と。敢えて託して去る、と。
現代語訳
子張が魯の哀公に謁見した。七日たっても哀公は礼を尽くさなかった。従僕に言づけて去るにあたって言った。「臣は聞きました、君は士を好まれると。だから千里の外を遠いとせず、霜と露を犯し、塵と垢をかぶり、百日の宿を重ねて足にまめを作り、あえて休まずに君にお目にかかりました。七日たっても君は礼を尽くされない。君が士を好まれるのは、葉公子高が龍を好んだのに似ています。葉公子高は龍を好み、帯留めに龍を彫り、のみで龍を刻み、家じゅうに彫り物をして龍を描きました。そこで本物の龍が聞きつけて降りてきました。頭を窓からのぞかせ、尾を堂に引きずりました。葉公はこれを見て、投げ出して逃げ帰り、魂を失い、顔色は定まりませんでした。これは葉公が龍を好んだのではありません。あの龍に似て龍でないものを好んだのです。いま臣は君が士を好まれると聞きました。だから千里の外を遠いとせずに君にお目にかかりました。七日たっても礼を尽くされない。君は士を好まれるのではありません。あの士に似て士でないものを好まれるのです。『詩経』に『心の中にこれを蔵する、いつの日かこれを忘れよう』とあります。あえて言づけて去ります」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『新序』雜事第五田饒魯の哀公に事うるも察せられず。田饒魯の哀公に謂いて曰く、臣將に君を去りて鴻鵠のごとく舉がらんとす、と。哀公曰く、何の謂いぞや、と。田饒曰く、君獨り夫の雞を見ざるか。頭に冠を戴くは、文なり。足に距を傅くるは、武なり。敵前に在りて敢えて鬭うは、勇なり。食を見て相い呼ぶは、仁なり。夜を守りて時を失わざるは、信なり。雞に此の五者有りと雖も、君猶お日ミ之を㵸て食らう。何となれば則ち、其の從りて來たる所の近きを以てなり。夫れ鴻鵠は一擧千里、君の園池に止まり、君の魚鼈を食らい君の菽粟を啄む。此の五者無し。君猶お之を貴ぶ。其の從りて來たる所の遠きを以てなり。臣請う、鴻鵠のごとく舉がらん、と。哀公曰く、止まれ。吾子の言を書せん、と。田饒曰く、臣聞く、其の食を食らう者は、其の器を毀たず。其の樹に蔭る者は、其の枝を折らず、と。士有りて用いずんば、何ぞ其の言を書して爲さん、と。遂に去りて燕に之く。燕立てて以て相と爲す。三年、燕の政太いに平らかに、國に盜賊無し。哀公之を聞き、慨然として太息し、之が爲に寢を避くること三月、上服を抽損して曰く、其の前を慎まずして、其の後を悔ゆ。何ぞ復た得可けんや、と。詩に曰く、逝きて將に汝を去り、彼の樂土に適かんとす。彼の樂土に適かば、爰に我が所を得んか、と。春秋に曰く、少くして君に長ずれば、則ち君之を輕んず、と。此の謂いなり。
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『新序』雜事第二昔者、燕の相君に罪を得たり。將に出亡せんとす。門下の諸大夫を召して曰く、能く我に從いて出づる者有るか、と。三たび問うも、諸大夫對うる莫し。燕の相曰く、嘻、亦た士の養うに足らざる有るか、と。大夫に進む者有りて曰く、亦た君の士を養う能わざる有り。安んぞ士の養うに足らざる者有らんや。凶年饑歲には、士は糟粕すら厭かず。而るに君の犬馬は、榖粟餘り有り。隆冬烈寒には、士は裋褐すら完からず、四體蔽われず。而るに君の臺觀は、帷幕錦繡、風に隨いて飄飄として弊る。財は君の輕んずる所なり。死は士の重んずる所なり。君は君の輕んずる所を施す能わずして、士の重んずる所を得んことを求む。亦た難からずや、と。燕の相遂に慙じて遁逃し、復た敢えて見えず。
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『新序』雜事第五齊に閭丘卭なる者有り、年十八。道に宣王を遮りて曰く、家貧しく親老いたり。願わくは小仕を得ん、と。宣王曰く、子は年尚お稚し。未だ可ならざるなり、と。閭丘卭對えて曰く、然らず。昔顓頊有り、行年十二にして天下を治む。秦の項槖は七歲にして聖人の師と爲る。此に由りて之を觀れば、卭は不肖なるのみ。年は稚からざるなり、と。宣王曰く、未だ咫角の驂駒にして能く重きに服し遠きを致す者有らざるなり。此に由りて之を觀れば、夫れ士も亦た華髮墮顛にして後に用う可きのみ、と。閭丘卭曰く、然らず。夫れ尺にも短き所有り、寸にも長き所有り。驊騮・緑驥は、天下の俊馬なり。之をして貍鼬と釜竈の間に試みしめば、其の疾きこと未だ必ずしも貍鼬に過ぐる能わざるなり。黄鵠・白鶴は、一擧千里なり。之をして燕・服翼と、之を堂廡の下、廬室の間に試みしめば、其の便なること未だ必ずしも燕・服翼に過ぐる能わざるなり。辟閭・巨闕は、天下の利器なり。石を擊ちて缺けず、石を刺して銼れず。之をして管槀と目を決き眯を出だすことを爲さしめば、其の便なること未だ必ずしも管槀に過ぐる能わざるなり。此に由りて之を觀れば、華髮墮顛と卭と何を以て異ならんや、と。宣王曰く、善し。子に善言有り。何ぞ寡人に見ゆることの晩きや、と。卭對えて曰く、夫れ雞豚讙嗷すれば、即ち鐘鼓の音を奪う。雲霞充咽すれば則ち日月の明を奪う。讒人側に在り。是を以て見ゆること晩きなり。詩に曰く、言を聽けば則ち對え、譖言なれば則ち退く、と。庸ぞ進むを得んや、と。宣王軾を拊ちて曰く、寡人過ち有り、と。遂に載せて之と俱に歸りて用う。故に孔子曰く、後生畏る可し。安んぞ來者の今に如かざるを知らんや、と。此の謂いなり。
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『新序』義勇第八知伯囂の時、士有り長兒子魚と曰う。知伯を絶ちて之を去る。三年、將に東のかた越に之かんとす。而して道に知伯囂の殺さるるを聞く。御に謂いて曰く、車を還らして反れ。吾將に之に死せんとす、と。御曰く、夫子知伯を絶ちて之を去ること三年なり。今反りて之に死するは、是れ絶つと屬すると別無きなり、と。長兒子魚曰く、然らず。吾聞く、仁者は餘愛無く、忠臣は餘祿無し、と。吾知伯の死を聞きて吾が心を動かす。餘祿の我に加わる者、今に至るも尚お存す。吾將に往きて之に依らんとす、と。反りて死す。
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『新序』雜事第二鴻鵠は猶お其の小なる者なり。蔡侯の事故に是れなり。蔡侯南のかた高陵に遊び、北のかた巫山を徑り、麋・麕・麞・鹿を逐い、谿子を彉きて隨い、時鳥高蔡の囿に嬉遊し、溢滿涯無く、國家を以て事と爲さず。知らず、子發宣王に令を受け、厄するに淮水を以てし、填つるに巫山を以てし、庚子の朝、纓するに朱絲を以てし、臣として之を宣王に奏せしを。蔡侯の事も猶お其の小なる者なり。今君王の事、遂に左に州侯、右に夏侯、新安君と壽陵君とを從え、淫衍侈靡、康樂遊娛して雲夢の中に馳騁し、天下と國家とを以て事と爲さず。知らず、穰侯方に秦王と謀り、之を黽厄に寘きて之を黽塞の外に投ぜんとするを、と。襄王大いに懼れ、形體掉栗して曰く、謹んで令を受けん、と。乃ち莊辛を封じて成陵君と爲し、計を用う。與に淮北の地十二諸侯を舉ぐ。
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『新序』雜事第二梁君出でて獵す。白雁の羣を見る。梁君車を下り、弓を彀きて之を射んと欲す。道に行く者有り。梁君行く者に止まれと謂う。行く者止まらず。白雁の羣駭く。梁君怒り、行く者を射んと欲す。其の御公孫襲車を下り矢を撫でて曰く、君止まれ、と。梁君忿然として色を作して怒りて曰く、襲は其の君に與せずして、顧って他人に與するは、何ぞや、と。公孫襲對えて曰く、昔齊の景公の時、天大いに旱すること三年。之を卜して曰く、必ず人を以て祠らば、乃ち雨ふらん、と。景公堂を下り頓首して曰く、凡そ吾雨を求むる所以の者は、吾が民の爲なり。今必ず吾をして人を以て祠らしめて乃ち且に雨ふらんとせば、寡人將に自ら之に當たらんとす、と。言未だ卒わらずして天大いに雨ふること方千里なるは、何ぞや。天に德有りて民に惠あるが爲なり。今主君白雁の故を以て人を射んと欲す。襲主君に謂う、言うこと虎狼に異なる無し、と。梁君其の手を援きて與に車に上り、歸りて廟門に入り、萬歲を呼びて曰く、幸いなるかな。今日や、他人の獵は、皆な禽獸を得たり。吾が獵は善言を得て歸る、と。