新序 / 雜事第二
靖郭君欲城薛;而客多以諫,君告謁者,無為客通事。於是有一齊人曰:「臣願一言,過一言,臣請烹。」謁者贊客。客曰:「海大魚。」因反走。靖郭君曰:「請少進。」客曰:「否。臣不敢以死戯靖郭君曰:「嘻!寡人毋得已,試復道之。」客曰:「君獨不聞海大魚乎?網弗能止,繳不能牽,碭而失水,陸居則螻蟻得意焉。且夫齊,亦君之水也,君已有齊,奚以薛為?君若無齊,城薛猶且無益也。」靖郭君大悦,罷民弗城薛也。
新字:靖郭君欲城薛;而客多以諫,君告謁者,無為客通事。於是有一斉人曰:「臣願一言,過一言,臣請烹。」謁者賛客。客曰:「海大魚。」因反走。靖郭君曰:「請少進。」客曰:「否。臣不敢以死戯靖郭君曰:「嘻!寡人毋得已,試復道之。」客曰:「君独不聞海大魚乎?網弗能止,繳不能牽,碭而失水,陸居則螻蟻得意焉。且夫斉,亦君之水也,君已有斉,奚以薛為?君若無斉,城薛猶且無益也。」靖郭君大悦,罷民弗城薛也。
書き下し
靖郭君薛に城かんと欲す。而して客多く以て諫む。君謁者に告げ、客の爲に事を通ずる無からしむ。是に於いて一齊人有りて曰く、臣願わくは一言せん。一言に過ぎば、臣烹らるるを請わん、と。謁者客を贊く。客曰く、海大魚、と。因りて反り走る。靖郭君曰く、請う少しく進め、と。客曰く、否。臣敢えて死を以て戲れず、と。靖郭君曰く、嘻、寡人已むを得ざるなり。試みに復た之を道え、と。客曰く、君獨り海の大魚を聞かざるか。網も止むる能わず、繳も牽く能わず。碭として水を失えば、陸居すれば則ち螻蟻意を得ん。且つ夫れ齊も、亦た君の水なり。君已に齊有り。奚ぞ薛を以て爲さん。君若し齊無くんば、薛に城くも猶お且つ益無きなり、と。靖郭君大いに悦び、民を罷めて薛に城かざるなり。
現代語訳
靖郭君が薛に城壁を築こうとしていた。ところが食客の多くが諫めた。君は取次役に告げて、食客のために取り次がないようにさせた。そこへ一人の斉の人がいて言った。「臣はひと言だけ申し上げたい。ひと言を超えたら、煮殺されても構いません」。取次役が客を導いた。客は言った。「海大魚」。そう言って身を翻して走り去った。靖郭君は言った。「もう少し進んで話せ」。客は言った。「いいえ。臣は死を賭けてふざけたりはいたしません」。靖郭君は言った。「ああ、私はもうやむを得ない。試みにもう一度話してくれ」。客は言った。「君はあの海の大魚のことをお聞きになりませんか。網も止めることができず、糸付きの矢も引き寄せることができません。ところが勢い余って水を失えば、陸に上がったところで螻や蟻の思うままです。そもそも斉もまた、君にとっての水です。君はすでに斉をお持ちです。どうして薛などを頼りにされるのですか。君にもし斉がなければ、薛に城を築いてもやはり益はありません」。靖郭君は大いに悦び、民役をやめて薛に城壁を築かなかった。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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葉隠・聞書第一或人(あるひと)覚悟の体(てい)覚書に、主君の身辺(しんぺん)勤むる者は別けて身持(みもち)覚悟慎むべきことなり。御側(おそば)の者の様子を見て、主人のたけを人が積(つも)るものなり。今は御機嫌悪し、序(つい)でになどと思うて居る内に、不図(ふと)御誤(おんあやまり)もあるべきことなり。又諫言(かんげん)は時を移さず申し上ぐべきことなり。仰せ出(いで)済みて後も、其の者に理を附け、少しづつもよき様に云いなせば、帰参(きさん)も早きものなり。又仕合せ(しあわせ)よき人には、無音(ぶいん)しても苦しからず、侍の義理なり。又科人(とがにん)をわろく云うは不義理の事なり。落ちぶれたる者には随分不憫(ふびん)を加え、何とぞ立ち直す様に致すべきこと、侍の義理なりと、これあり候。
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葉隠・聞書第一御縁組(ごえんぐみ)の時、何某(なにがし)一分(いちぶん)を申し達し候。この事、若き衆(しゅう)よく心得(こころえ)置くべき事なり。その身(み)気味(きみ)よく思うて、云(い)ふべき事を云うて腹切(はらき)りても本望(ほんもう)と思ふべし。よくよく了簡(りょうけん)候へ、何の益(えき)にも立たぬ事なり。我(われ)かやうの事を云うて腹切りても本望と思ふは、なるほど聞(きこ)えたり。曲者(くせもの)などと思ふは以(もっ)ての外(ほか)なる取違(とりちが)ひなり。まづ申し出でたる事その詮(せん)なく、我が身は引き取り、御養育(ごよういく)も仕(つかまつ)らず、追付(おっつ)け御死去(ごしきょ)なされ候に、御看病(ごかんびょう)も仕らず、残念千万(ざんねんせんばん)なり。気過(きす)ぎなる人は多分(たぶん)誤(あやま)る所なり。総(そう)じてその位(くらい)に至らずして諫言(かんげん)するは却(かえ)つて不忠(ふちゅう)なり。誠(まこと)の者ならば、我が存(ぞん)じ寄りたる事を似合(にあ)ひたる人に潜(ひそ)かに内談(ないだん)して、その人の思ひ寄りにさせて云へば、その事調(ととの)はるなり。これ忠節(ちゅうせつ)なり。もし、内談にてその人請(う)け合はずば、また外(ほか)の人にも内談し、とかく色々心遣(こころづか)ひをして、その事さへ調はるる様にすれば、大忠節(だいちゅうせつ)も知れぬ様にして居るものなり。幾人(いくにん)に内談しても、埒(らち)明かざる時は力に及ばず、その分(ぶん)にて打ち過ぎ、または起こし立て起こし立てすれば、多分叶(かな)ふものなり。我こそ曲者と云はるる名聞(みょうもん)ばかりにて、我が手柄(てがら)にするゆゑ調はざるなり。申し出でたる事益には立たず、人に難(なん)ぜられ、我が身を崩(くず)したる人数多(あまた)これあるなり。畢竟(ひっきょう)真(しん)の志(こころざし)なきゆゑなり。我が身を一向(いっこう)に捨て捨てて、主君の上(うえ)どうなりとも好き様にとさへ思へば、紛(まぎ)るる事はこれなく候なり。
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葉隠・聞書第一主人に諫言(かんげん)をするに色々あるべし。志(こころざし)の諫言は、脇(わき)に知れぬ様にするなり。御気(おんき)にさからわぬ様にして御癖(おんくせ)を直し申すものなり。細川頼之(ほそかわよりゆき)が忠義などなり。昔、御道中にて、御年寄(おとしより)何某(なにがし)承り、「某(それがし)、一命を捨てて申し上ぐべく候。段々御延引(ごえんいん)の上に脇寄(わきよ)りなど遊ばされ候節(せつ)、以ての外(ほか)然(しか)るべからず候。」と、諸人(しょにん)に向かい、「御暇乞(おいとまごい)仕り候。」と詞(ことば)を渡し、行水(ぎょうずい)、白帷子(しろかたびら)下着(したぎ)にて御前(ごぜん)へ罷出(まかりい)でられ、追付(おっつけ)退出、また諸人に向かい、「拙者(せっしゃ)申し上げ候儀、聞召(きこしめ)し分けられ本望至極(ほんもうしごく)、皆様へ一度御目に懸(かか)り候儀、不思議の仕合(しあわ)せ。」など広言(こうげん)申され候。これ皆、主人の非を顕(あらわ)し、我が忠を揚げ、威勢(いせい)を立つる仕事なり。多分、他国者(たこくもの)にこれあるなり。
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葉隠・聞書第一諫言(かんげん)の道に、我(われ)其の位(くらい)にあらずば、其の位の人に言はせて、御誤(おあやまり)直(なお)る様にするが大忠(たいちゅう)なり。此の階(かい)の為に諸人(しょにん)と懇意(こんい)する所なり。我が為にすれば追従(ついしょう)なり。一方(いっぽう)は我等(われら)荷(にな)ひ申す心入(こころいれ)からなり。成程(なるほど)なるものなり。
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荀子・大略篇人の臣下たる者は、諫むること有るも訕ること無く、亡ること有るも疾むこと無く、怨むこと有るも怒ること無し。
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尚書・皐陶謨予(われ)違(たが)わば、汝(なんじ)弼(たす)けよ。汝、面従(めんじゅう)することなく、退(しりぞ)きて後言(こうげん)あることなかれ。