新序 / 雜事第二
晉文公出田逐獸,碭入大澤,迷不知所出,其中有漁者,文公謂曰:「我若君也,道安從出,我且厚賜若。」漁者曰:「臣願有獻。」公曰:「出澤而受之。」於是遂出澤。公令曰:「子之所欲以教寡人者,何等也?願受之。」漁者曰:「鴻鵠保河海之中,厭而欲移徙之小澤,則必有九繒之憂,黿鼉保深淵,厭而出之淺渚,則必有羅網釣射之憂。今君逐獸,碭入至此。何行之太逺也?」文公曰:「善哉!」謂從者記漁者名。漁者曰:「君何以名,為君其尊天事地,敬社稷,固四國,慈愛萬民,薄賦斂,輕租税者,臣亦與焉。君不敬社稷,不固四國,外失禮於諸侯,内逆民心,一國流亡,漁者雖得厚賜,不能保也。」遂辭不受。曰:「君亟歸國;臣亦反吾漁所。」
新字:晉文公出田逐獣,碭入大沢,迷不知所出,其中有漁者,文公謂曰:「我若君也,道安従出,我且厚賜若。」漁者曰:「臣願有献。」公曰:「出沢而受之。」於是遂出沢。公令曰:「子之所欲以教寡人者,何等也?願受之。」漁者曰:「鴻鵠保河海之中,厭而欲移徙之小沢,則必有九繒之憂,黿鼉保深淵,厭而出之浅渚,則必有羅網釣射之憂。今君逐獣,碭入至此。何行之太遠也?」文公曰:「善哉!」謂従者記漁者名。漁者曰:「君何以名,為君其尊天事地,敬社稷,固四国,慈愛万民,薄賦斂,軽租税者,臣亦与焉。君不敬社稷,不固四国,外失礼於諸侯,内逆民心,一国流亡,漁者雖得厚賜,不能保也。」遂辞不受。曰:「君亟帰国;臣亦反吾漁所。」
書き下し
晉の文公出でて田し獸を逐い、碭として大澤に入り、迷いて出づる所を知らず。其の中に漁者有り。文公謂いて曰く、我は若が君なり。道は安くより出でん。我且に厚く若に賜わんとす、と。漁者曰く、臣願わくは獻ずる有らん、と。公曰く、澤を出でて之を受けん、と。是に於いて遂に澤を出づ。公令して曰く、子の寡人に教えんと欲する所の者は、何等ぞや。願わくは之を受けん、と。漁者曰く、鴻鵠は河海の中に保つ。厭きて小澤に移徙せんと欲すれば、則ち必ず九繒の憂い有り。黿鼉は深淵に保つ。厭きて淺渚に出づれば、則ち必ず羅網釣射の憂い有り。今君獸を逐い、碭として入りて此に至る。何ぞ行くことの太だ遠きや、と。文公曰く、善いかな、と。從者に謂いて漁者の名を記さしむ。漁者曰く、君何ぞ名を以てせん。君其れ天を尊び地に事え、社稷を敬し、四國を固くし、萬民を慈愛し、賦斂を薄くし、租税を輕くせば、臣も亦た焉に與らん。君社稷を敬せず、四國を固くせず、外は禮を諸侯に失い、内は民心に逆らわば、一國流亡す。漁者厚賜を得と雖も、保つ能わざるなり、と。遂に辭して受けず。曰く、君亟かに國に歸れ。臣も亦た吾が漁する所に反らん、と。
現代語訳
晋の文公が狩りに出て獣を追い、勢い余って大きな沢に入り込み、迷って出口が分からなくなった。その中に漁師がいた。文公は言った。「私はそなたの君である。道はどこから出るのか。私はそなたに厚く褒美を与えよう」。漁師は言った。「臣は申し上げたいことがございます」。文公は言った。「沢を出てからそれを受けよう」。そこでついに沢を出た。文公は言った。「そなたが私に教えようとすることは、どういうことか。ぜひ受けよう」。漁師は言った。「鴻鵠は大きな川や海の中に身を保っています。それに飽きて小さな沢へ移ろうとすれば、必ず幾重もの網に掛かる憂いがあります。すっぽんやわには深い淵に身を保っています。それに飽きて浅い渚に出れば、必ず網や釣り針や矢の憂いがあります。いま君は獣を追い、勢い余ってここまで入り込まれました。なんと遠くまで行かれたことでしょう」。文公は言った。「よいことを言う」。従者に漁師の名を記録させようとした。漁師は言った。「君はどうして名などお求めになるのですか。君が天を尊び地に仕え、国家を敬い、四方の国を固め、万民を慈しみ、取り立てを薄くし、租税を軽くされるなら、臣もまたその恵みにあずかります。君が国家を敬わず、四方の国を固めず、外では諸侯に礼を失い、内では民心に逆らわれるなら、国はまるごと流れ滅びます。漁師が厚い褒美を得たところで、それを保つことはできません」。そこで辞退して受けなかった。言った。「君は速やかに国へお帰りください。臣もまた漁の場に戻ります」。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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葉隠・聞書第一或人(あるひと)覚悟の体(てい)覚書に、主君の身辺(しんぺん)勤むる者は別けて身持(みもち)覚悟慎むべきことなり。御側(おそば)の者の様子を見て、主人のたけを人が積(つも)るものなり。今は御機嫌悪し、序(つい)でになどと思うて居る内に、不図(ふと)御誤(おんあやまり)もあるべきことなり。又諫言(かんげん)は時を移さず申し上ぐべきことなり。仰せ出(いで)済みて後も、其の者に理を附け、少しづつもよき様に云いなせば、帰参(きさん)も早きものなり。又仕合せ(しあわせ)よき人には、無音(ぶいん)しても苦しからず、侍の義理なり。又科人(とがにん)をわろく云うは不義理の事なり。落ちぶれたる者には随分不憫(ふびん)を加え、何とぞ立ち直す様に致すべきこと、侍の義理なりと、これあり候。
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葉隠・聞書第一御縁組(ごえんぐみ)の時、何某(なにがし)一分(いちぶん)を申し達し候。この事、若き衆(しゅう)よく心得(こころえ)置くべき事なり。その身(み)気味(きみ)よく思うて、云(い)ふべき事を云うて腹切(はらき)りても本望(ほんもう)と思ふべし。よくよく了簡(りょうけん)候へ、何の益(えき)にも立たぬ事なり。我(われ)かやうの事を云うて腹切りても本望と思ふは、なるほど聞(きこ)えたり。曲者(くせもの)などと思ふは以(もっ)ての外(ほか)なる取違(とりちが)ひなり。まづ申し出でたる事その詮(せん)なく、我が身は引き取り、御養育(ごよういく)も仕(つかまつ)らず、追付(おっつ)け御死去(ごしきょ)なされ候に、御看病(ごかんびょう)も仕らず、残念千万(ざんねんせんばん)なり。気過(きす)ぎなる人は多分(たぶん)誤(あやま)る所なり。総(そう)じてその位(くらい)に至らずして諫言(かんげん)するは却(かえ)つて不忠(ふちゅう)なり。誠(まこと)の者ならば、我が存(ぞん)じ寄りたる事を似合(にあ)ひたる人に潜(ひそ)かに内談(ないだん)して、その人の思ひ寄りにさせて云へば、その事調(ととの)はるなり。これ忠節(ちゅうせつ)なり。もし、内談にてその人請(う)け合はずば、また外(ほか)の人にも内談し、とかく色々心遣(こころづか)ひをして、その事さへ調はるる様にすれば、大忠節(だいちゅうせつ)も知れぬ様にして居るものなり。幾人(いくにん)に内談しても、埒(らち)明かざる時は力に及ばず、その分(ぶん)にて打ち過ぎ、または起こし立て起こし立てすれば、多分叶(かな)ふものなり。我こそ曲者と云はるる名聞(みょうもん)ばかりにて、我が手柄(てがら)にするゆゑ調はざるなり。申し出でたる事益には立たず、人に難(なん)ぜられ、我が身を崩(くず)したる人数多(あまた)これあるなり。畢竟(ひっきょう)真(しん)の志(こころざし)なきゆゑなり。我が身を一向(いっこう)に捨て捨てて、主君の上(うえ)どうなりとも好き様にとさへ思へば、紛(まぎ)るる事はこれなく候なり。
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葉隠・聞書第一主人に諫言(かんげん)をするに色々あるべし。志(こころざし)の諫言は、脇(わき)に知れぬ様にするなり。御気(おんき)にさからわぬ様にして御癖(おんくせ)を直し申すものなり。細川頼之(ほそかわよりゆき)が忠義などなり。昔、御道中にて、御年寄(おとしより)何某(なにがし)承り、「某(それがし)、一命を捨てて申し上ぐべく候。段々御延引(ごえんいん)の上に脇寄(わきよ)りなど遊ばされ候節(せつ)、以ての外(ほか)然(しか)るべからず候。」と、諸人(しょにん)に向かい、「御暇乞(おいとまごい)仕り候。」と詞(ことば)を渡し、行水(ぎょうずい)、白帷子(しろかたびら)下着(したぎ)にて御前(ごぜん)へ罷出(まかりい)でられ、追付(おっつけ)退出、また諸人に向かい、「拙者(せっしゃ)申し上げ候儀、聞召(きこしめ)し分けられ本望至極(ほんもうしごく)、皆様へ一度御目に懸(かか)り候儀、不思議の仕合(しあわ)せ。」など広言(こうげん)申され候。これ皆、主人の非を顕(あらわ)し、我が忠を揚げ、威勢(いせい)を立つる仕事なり。多分、他国者(たこくもの)にこれあるなり。
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葉隠・聞書第一諫言(かんげん)の道に、我(われ)其の位(くらい)にあらずば、其の位の人に言はせて、御誤(おあやまり)直(なお)る様にするが大忠(たいちゅう)なり。此の階(かい)の為に諸人(しょにん)と懇意(こんい)する所なり。我が為にすれば追従(ついしょう)なり。一方(いっぽう)は我等(われら)荷(にな)ひ申す心入(こころいれ)からなり。成程(なるほど)なるものなり。
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荀子・大略篇人の臣下たる者は、諫むること有るも訕ること無く、亡ること有るも疾むこと無く、怨むこと有るも怒ること無し。
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尚書・皐陶謨予(われ)違(たが)わば、汝(なんじ)弼(たす)けよ。汝、面従(めんじゅう)することなく、退(しりぞ)きて後言(こうげん)あることなかれ。