新序 / 雜事第一
趙文子問於叔向曰:「晉六將軍,孰先亡乎?」對曰:「其中行氏乎!」文子曰:「何故先亡?」對曰:「中行氏之為政也,以苛為察,以欺為明,以刻為忠,以計多為善,以聚斂為良。譬之其猶鞟革者也,大則大矣,裂之道也,當先亡。」
新字:趙文子問於叔向曰:「晉六将軍,孰先亡乎?」対曰:「其中行氏乎!」文子曰:「何故先亡?」対曰:「中行氏之為政也,以苛為察,以欺為明,以刻為忠,以計多為善,以聚斂為良。譬之其猶鞟革者也,大則大矣,裂之道也,当先亡。」
書き下し
趙文子叔向に問いて曰く、晉の六將軍、孰か先ず亡びんか、と。對えて曰く、其れ中行氏か、と。文子曰く、何の故に先ず亡ぶ、と。對えて曰く、中行氏の政を爲すや、苛を以て察と爲し、欺を以て明と爲し、刻を以て忠と爲し、計多きを以て善と爲し、聚斂を以て良と爲す。之を譬うれば其れ猶お革を鞟する者のごときなり。大なれば則ち大なり、裂くるの道なり。當に先ず亡ぶべし、と。
現代語訳
趙文子が叔向に問うた。「晋の六人の将軍のうち、誰が先に滅ぶだろうか」。答えた。「それは中行氏でしょう」。文子は言った。「どういうわけで先に滅ぶのか」。答えた。「中行氏の政の執り方は、苛酷であることを『よく見ている』とし、人を欺くことを『明晰だ』とし、むごいことを『忠実だ』とし、はかりごとが多いことを『善い』とし、取り立てることを『すぐれている』とします。これをたとえれば、革をなめして引き伸ばすようなものです。大きくは大きくなりますが、それは裂ける道です。当然、先に滅びます」。
解説
百六字の短い章です。滅びの兆しを、行いではなく呼び名で見ています。苛酷であることを「よく見ている」とし、人を欺くことを「明晰だ」とし、むごいことを「忠実だ」とし。やっていることは同じでも、悪いほうに別の名前が付いた時点で歯止めが消えます。そして喩えが一つ。革をなめして引き伸ばすようなものです。大きくは大きくなりますが、それは裂ける道です。伸びているのは成長ではなく、破れる直前の薄さでした。
この章句が説くこと
晉の六将軍孰か先ず亡びんか其れ中行氏か苛を以て察と為し欺を以て明と為し刻を以て忠と為す計多きを以て善と為し聚斂を以て良と為す之を譬うれば其れ猶お革を鞟する者のごときなり大なれば則ち大なり裂くるの道なり言葉兆し
関連する章句
-
人物志・八觀其の言甚だ懌べども、精色従わざる者は、中に違う有るなり。其の言違う有れども、精色信ずべき者は、辞の敏ならざるなり。
-
論語・顔淵篇司馬牛、仁を問う。子曰く、「仁者は、其の言や訒し。」曰く、「其の言や訒しければ、斯れ之を仁と謂うか。」子曰く、「之を為すこと難し、之を言うこと訒きこと無きを得んや。」
-
論語・子路篇子路曰く、「衛君、子を待ちて政を為さば、子将に奚をか先にせん。」子曰く、「必ずや名を正さんか。」子路曰く、「是れ有るかな。子の迂なるや。奚ぞ其れ正さん。」子曰く、「野なるかな、由や。君子は其の知らざる所に於いて、蓋し闕如たり。名正しからざれば、則ち言順わず。言順わざれば、則ち事成らず。事成らざれば、則ち礼楽興らず。礼楽興らざれば、則ち刑罰中らず。刑罰中らざれば、則ち民手足を措く所無し。故に君子は之に名づくれば必ず言う可きなり、之を言えば必ず行う可きなり。君子は其の言に於いて、苟くもする所無きのみ。」
-
論語・為政篇子曰く、詩三百、一言以て之を蔽えば、曰く、思い邪(よこしま)無しと。
-
『鬼谷子』捭闔篇口は、心の門戶なり。心は、神の主なり。志意、喜欲、思慮、智謀、此れ皆な門戶に由りて出入す。故に之を闗するに捭闔を以てし、之を制するに出入を以てす。
-
『鬼谷子』権篇古人に言有りて曰く、口は以て食らうべきも、以て言うべからず、と。言には、諱忌有り。衆口は金を爍かす。言に曲故有ればなり。