呻吟語 / 外篇・詞章・言は心の聲なり
自鄉舉裡選之法廢,而後世率尚詞章。唐以詩賦求真才,更為可歎。宋以經義取士,而我朝因之。夫取士以文,已為言舉人矣。然猶曰:言,心聲也。因文可得其心,因心可知其人。
新字:自鄉舉裡選之法廃,而後世率尚詞章。唐以詩賦求真才,更為可嘆。宋以経義取士,而我朝因之。夫取士以文,已為言舉人矣。然猶曰:言,心声也。因文可得其心,因心可知其人。
書き下し
鄉舉裡選の法廢れてより、後世率ね詞章を尚ぶ。唐は詩賦を以て真才を求む。更に歎ず可しと為す。宋は經義を以て士を取り、而して我が朝之に因る。夫れ士を取るに文を以てするは、已に言もて人を舉ぐと為すなり。然れども猶ほ曰く、言は、心の聲なりと。文に因りて其の心を得可く、心に因りて其の人を知る可し。
現代語訳
郷里から人を推挙する法が廃れてから、後の世はおおむね詞章を尊びました。唐は詩と賦で本当の才を求めました。さらに嘆かわしいことです。宋は経義で士を取り、我が朝もそれを受け継ぎました。士を取るのに文を用いるのは、すでに言葉で人を挙げることです。それでもなお言う、言葉は心の声だと。文によってその心を得られ、心によってその人を知れます。
解説
人材登用の歴史を辿ります。推挙が廃れ、唐は詩賦、宋と明は経義で選ぶようになりました。文で人を選ぶのは言葉で挙げることです。そのうえで、それでも成り立つ理由が示されます。言葉は心の声だから、文から心へ、心から人へ辿れる。次の段で、その辿り方が具体的に示されることになります。次の段で、その辿り方が具体的に示されます。文で人を選ぶことが、なぜ成り立つかの説明です。
この章句が説くこと
郷挙詩賦経義言為心声登用
関連する章句
-
『呻吟語』外篇・詞章・其の式安くにか在る萬曆丙戌より後、舉業の文字は晦夜濃陰の地穴を封ずるが如く、目を閉ぢ被を蒙り燈光を滅するが如し。又た墓中の人の鬼話を說き、顛狂の人の風話を說き、伏章の人の天話を說くが如し。又た楞嚴孔雀の咒語真言の如し。世道の大妖なり。其の名家云ふ、「文は人の省得せざる處に到りて才めて中たり、自家の省得せざる處に到りて才めて高く中たる」と。其の法を重んぜずんば、人心は日に魑魅魍魎に趨かん。或るひと曰く、「文章は甚麼の人心世道に關はらんや」と。嗟嗟、此れ醉生夢死の語なり。國家は文を以て士を取る。其の文を取るに非ず、文に因りて其の心を知り、心に因りて其の人を知る。故に之を取るのみ。言此の若くんば、其の人を謂ひて光明正大の君子と曰ふは、吾信ぜざるなり。且つ其の人を錄して中式と曰ひ、其の文を進呈して中式の文と曰ふ。試みに問ふ、其の式は安くにか在るや。
-
『呻吟語』外篇・詞章・文に因りて道を見る古人に無益の文章無し。其の道を明らかにするや形して言と為らざるを得ず。其の言を發するや成して文と為らざるを得ず。所謂文に因りて道を見る者なり。其の文の古今工拙は論ずる無し。
-
『呻吟語』外篇・詞章・文の長有りて文の病無くんば其の文爽亮なる者は、其の心必ず光明なり。而して其の粗淺の病を察す。其の文勁直なる者は、其の人必ず剛方なり。而して其の豪悍の病を察す。其の文藻麗なる者は、其の人必ず文采あり。而して其の靡曼の病を察す。其の文莊重なる者は、其の人必ず端嚴なり。而して其の寥落の病を察す。其の文飄逸なる者は、其の人必ず流動す。而して其の浮薄の病を察す。其の文典雅なる者は、其の人必ず質實なり。而して其の樸鈍の病を察す。其の文雄暢なる者は、其の人必ず揮霍す。而して其の弛跅の病を察す。其の文溫潤なる者は、其の人必ず和順なり。而して其の巽軟の病を察す。其の文簡潔なる者は、其の人必ず修謹なり。而して其の拘攣の病を察す。其の文深沉なる者は、其の人必ず精細なり。而して其の陰險の病を察す。其の文沖淡なる者は、其の人必ず恬雅なり。而して其の懶散の病を察す。其の文變化する者は、其の人必ず圓通す。而して其の機械の病を察す。其の文奇巧なる者は、其の人必ず聰明なり。而して其の怪誕の病を察す。其の文蒼老なる者は、其の人必ず俗ならず。而して其の迂腐の病を察す。文の長有りて、文の病無くんば、則ち其の人知る可きなり。文即ひ未だ純ならずとも、必ず棄つ可からず。今や但だ其の文を取るのみ。見は深邃ならんことを欲し、調は新脫ならんことを欲し、意は奇特ならんことを欲し、句は飣餖ならんことを欲し、鍛鍊は工ならんことを欲し、態度は俏ならんことを欲し、粉黛は濃からんことを欲し、面皮は厚からんことを欲す。是を以て業舉の家は、理を棄てて辭を工にし、我を忘れて世に徇ひ、剽竊湊泊して、全く自己の神情無し。口語筆端、主司の好尚に迎合す。沿習の調既に成り、本然の天露れず。而して文を校する者も亦た世調に迷ひ、其の文を取りて其の人を忘る。何ぞ暗かに摸りて蒼黃を辨じ、壁を隔てて妍媸を察するに異ならんや。真才を得んと欲するも、豈に難からずや。
-
『呻吟語』外篇・詞章・文は以て道を載す韓を擬し柳に臨み、馬に效ひ班に學び、代相ひ祖述して、其の糟粕を竊むは、謬れり。夫れ文は以て道を載するなり。苟しくも文以て道を明らかにするに足らば、吾が文を謂ひて六經と為すも可なり。何ぞや。六經と相ひ叛かざればなり。否らずんば、申・韓の學術を發明して、飾るに六經の文法を以てす。道有る君子は之を以て瓿を覆はん。
-
『呻吟語』外篇・治道・良法有りて旋ちに至る可し儒學の大いに壞るること極まれり。十年ならずんば以て成材を望むに足らず。武學の行はれざること久し。十年ならずんば以て名を求むるに足らず。將に未だ用ひざるの先に遴選し、方に用ふるの際に條責し、既に用ふるの後に綜核し、效あると效あらざるの時に黜陟するに至らば、盡く良法有りて旋ちに至る可く、立ちどころに驗有る者なり。
-
『呻吟語』外篇・治道・擇びて後に用ふ古の人を官するや擇びて後に用ふ。故に其の考課や常に恕なり。何ぞや。小過を以て擇ぶ所を棄てざればなり。今の人を官するや用ひて後に擇ぶ。郤つて又た姑息を以て之を行ふ。是れ擇ぶ無きなり。是れ奸回を容保するなり。豈に渾厚ならんや。哀しいかな萬姓よ。