呻吟語 / 外篇・詞章・沖淡の人は雅興多し
清逸之人多芳興,其詩俊,讀之令人自愛,脫粗鄙之態。沉潛之人多幽興,其詩淡,讀之令人寂靜,動深遠之思。沖淡之人多雅興,其詩老,讀之令人平易,消童稚之氣。
新字:清逸之人多芳興,其詩俊,読之令人自愛,脫粗鄙之態。沈潜之人多幽興,其詩淡,読之令人寂静,動深遠之思。沖淡之人多雅興,其詩老,読之令人平易,消童稚之気。
書き下し
清逸の人は芳興多し。其の詩は俊なり。之を讀めば人をして自ら愛せしめ、粗鄙の態を脫せしむ。沉潛の人は幽興多し。其の詩は淡なり。之を讀めば人をして寂靜ならしめ、深遠の思ひを動かす。沖淡の人は雅興多し。其の詩は老なり。之を讀めば人をして平易ならしめ、童稚の氣を消す。
現代語訳
清らかで逸れた人には芳しい興が多い。その詩は俊やかで、読めば人に自らを愛させ、粗く卑しい態度を脱がせます。沈み潜む人には幽かな興が多い。その詩は淡く、読めば人を静かにさせ、深く遠い思いを起こします。和やかで淡い人には雅な興が多い。その詩は老熟し、読めば人を平易にさせ、幼い気を消します。
解説
前の段に続けて、三つの型を並べます。清逸な人は俊やかな詩で粗さを脱がせ、沈潜する人は淡い詩で深い思いを起こし、沖淡な人は老熟した詩で幼さを消します。四つ揃うことで、詩が読み手の何を直すかが一覧になります。詩を鑑賞ではなく、効き目のある薬のように扱う見方が示された一段です。詩が読み手の何を直すかが、一覧になっています。詩を薬のように扱う見方が、示された一段です。
この章句が説くこと
清逸沈潜沖淡詩風効き目
関連する章句
-
『呻吟語』外篇・詞章・疏狂の人は豪興多し疏狂の人は豪興多し。其の詩は雄なり。之を讀めば人をして灑落せしめ、懦を起こすの功有り。
-
『呻吟語』外篇・詞章・詩辭は哭笑の如くならんことを要す詩辭は哭笑の如くならんことを要す。情の已むを容れざるに發せば、則ち真切にして味有り。果たして真ならば、工拙を較ぶるを必ずしもせず。後世は只だ詩辭を學ばんと要す。然れども工にして真を失はば、詩辭の本意に非ざるなり。
-
『呻吟語』外篇・詞章・吾は點に與せん詩家に拘鄙の氣無し。然れども人をして放曠ならしむ。詞家に暴戾の氣無し。然れども人をして淫靡ならしむ。道學は自ら泰にして驕らず、樂しみて淫せざるの氣象有り。意を詩詞に寄すと雖も、而して綴景言情は皆な義理の中より流れ出づ。所謂風を吟じ月を弄するに、「吾は點に與せん」の意有り。
-
『呻吟語』外篇・詞章・詩詞文賦詩・詞・文・賦は、都て個の君を憂ひ國を愛するの意、人を濟し物を利するの心、春風舞雩の趣、天に達し性を見るの精有るを要す。贅言を為さず、餘緒を襲はず、鄙迂を道はず、幽僻を言はず、刻削を事とせず、偏執に徇はず。
-
『呻吟語』外篇・天地・濁氣は醇、清氣は漓濁氣は醇、清氣は漓なり。濁氣は厚く、清氣は薄し。濁氣は同じく、清氣は分かる。濁氣は溫かく、清氣は寒し。濁氣は柔にして、清氣は剛なり。濁氣は陰にして、清氣は陽なり。濁氣は豐かにして、清氣は嗇し。濁氣は甘く、清氣は苦し。濁氣は榮え、清氣は枯る。濁氣は融け、清氣は孤なり。濁氣は生じ、清氣は殺す。
-
『呻吟語』外篇・詞章・文の長有りて文の病無くんば其の文爽亮なる者は、其の心必ず光明なり。而して其の粗淺の病を察す。其の文勁直なる者は、其の人必ず剛方なり。而して其の豪悍の病を察す。其の文藻麗なる者は、其の人必ず文采あり。而して其の靡曼の病を察す。其の文莊重なる者は、其の人必ず端嚴なり。而して其の寥落の病を察す。其の文飄逸なる者は、其の人必ず流動す。而して其の浮薄の病を察す。其の文典雅なる者は、其の人必ず質實なり。而して其の樸鈍の病を察す。其の文雄暢なる者は、其の人必ず揮霍す。而して其の弛跅の病を察す。其の文溫潤なる者は、其の人必ず和順なり。而して其の巽軟の病を察す。其の文簡潔なる者は、其の人必ず修謹なり。而して其の拘攣の病を察す。其の文深沉なる者は、其の人必ず精細なり。而して其の陰險の病を察す。其の文沖淡なる者は、其の人必ず恬雅なり。而して其の懶散の病を察す。其の文變化する者は、其の人必ず圓通す。而して其の機械の病を察す。其の文奇巧なる者は、其の人必ず聰明なり。而して其の怪誕の病を察す。其の文蒼老なる者は、其の人必ず俗ならず。而して其の迂腐の病を察す。文の長有りて、文の病無くんば、則ち其の人知る可きなり。文即ひ未だ純ならずとも、必ず棄つ可からず。今や但だ其の文を取るのみ。見は深邃ならんことを欲し、調は新脫ならんことを欲し、意は奇特ならんことを欲し、句は飣餖ならんことを欲し、鍛鍊は工ならんことを欲し、態度は俏ならんことを欲し、粉黛は濃からんことを欲し、面皮は厚からんことを欲す。是を以て業舉の家は、理を棄てて辭を工にし、我を忘れて世に徇ひ、剽竊湊泊して、全く自己の神情無し。口語筆端、主司の好尚に迎合す。沿習の調既に成り、本然の天露れず。而して文を校する者も亦た世調に迷ひ、其の文を取りて其の人を忘る。何ぞ暗かに摸りて蒼黃を辨じ、壁を隔てて妍媸を察するに異ならんや。真才を得んと欲するも、豈に難からずや。