呻吟語 / 外篇・廣喻・應に又た餅錢有るべからず
人入餅肆,問:「餅直幾何?」館人曰:「餅一錢一。」食數餅矣,錢如數與之,館人曰:「餅不用面乎?應面錢若干。」食者曰,「是也,」與之,又曰:「不用薪水乎?應薪水錢若干。」食者曰:「是也。」與之。又曰:「不用人工為之乎?應工錢若干。」食者曰,「是也。」與之。歸而思於路曰:「吾愚也哉!出此三色錢,不應又有餅錢矣。」
新字:人入餅肆,問:「餅直幾何?」館人曰:「餅一銭一。」食数餅矣,銭如数与之,館人曰:「餅不用面乎?応面銭若干。」食者曰,「是也,」与之,又曰:「不用薪水乎?応薪水銭若干。」食者曰:「是也。」与之。又曰:「不用人工為之乎?応工銭若干。」食者曰,「是也。」与之。帰而思於路曰:「吾愚也哉!出此三色銭,不応又有餅銭矣。」
書き下し
人餅肆に入りて問ふ、「餅の直は幾何ぞ」と。館人曰く、「餅は一錢に一つ」と。數餅を食らひて、錢を數の如く之に與ふ。館人曰く、「餅は面を用ひざらんや。應に面錢若干あるべし」と。食らふ者曰く、「是なり」と。之を與ふ。又た曰く、「薪水を用ひざらんや。應に薪水錢若干あるべし」と。食らふ者曰く、「是なり」と。之を與ふ。又た曰く、「人工を用ひて之を為らざらんや。應に工錢若干あるべし」と。食らふ者曰く、「是なり」と。之を與ふ。歸りて路に思ひて曰く、「吾愚なるかな。此の三色の錢を出ださば、應に又た餅錢有るべからず」と。
現代語訳
ある人が餅屋に入って尋ねました。餅はいくらか。店の人が言いました。餅は一つ一銭。数個食べて、その分の銭を渡しました。店の人が言いました。餅に粉を使わないでしょうか。粉代がいくらか要ります。食べた人は言いました。その通りだ。渡しました。また言いました。薪と水を使わないでしょうか。薪水代がいくらか要ります。食べた人は言いました。その通りだ。渡しました。また言いました。人の手を使って作らないでしょうか。手間賃がいくらか要ります。食べた人は言いました。その通りだ。渡しました。帰り道に考えて言いました。私は愚かだった。この三種の銭を払うなら、そのうえ餅代が要るはずがない。
解説
この章句が説くこと
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『呻吟語』内篇・應務・所直幾何ぞと曰ふは亂語のみ一介にして必ず吝しむ者有り、千金にして輕んず可き者有り。而るに世の取與を論ずるは動もすれば、直る所幾何ぞと曰ふ。此れ亂語のみ。
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『呻吟語』外篇・廣喻・知る、翁の素を惡むを一人多く避忌す。家に慶賀有らば、一切紅を尚びて素を惡む。客に白馬に乘る者有らば、廄に入らしめず。閒に少年の面白き者有り、諧謔を善くす。朱を以て面に塗りて入る。主人驚きて問ふ。生曰く、「知る、翁の素を惡むを。敢へて白面を以て罪を取らず」と。滿座大いに笑ひ、主人愧ぢて之を改む。
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『呻吟語』内篇・應務・渾堅は聖人制物の道一人は屋を覆ふに瓦を以てし、一人は屋を覆ふに茅を以てす。瓦を覆ふ者に謂ひて曰く、「子の費は予に十倍す。然れども風雨を蔽ふは一なり」と。瓦を覆ふ者曰く、「茅は十年にして腐り、而して瓦は百年にして碎けず。子は百年に十たび更め、而して工力の費、屢しば變ずるの勞多し」と。嗟夫、天下の患は堅久の費有りて屢變の勞を貽すより大なるは莫し。是れを之れ無用を工みにし有益を害すと謂ふ。天下の思も亦た朝夕の近きに狃れ、久遠の安きを忘るるより大なるは莫し。是れを之れ速成を欲し小利を見ると謂ふ。是の故に樸素渾堅は、聖人の物を制し用を利するの道なり。
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『呻吟語』内篇・談道・費を省と為すを知る者は善く省む費を省と為すを知る者は、善く省む者なり。而れども省を以て省と為す者は愚なり、其の費は必ず倍す。勞を逸と為すを知る者は、善く逸する者なり。而れども逸を以て逸と為す者は昏し、其の勞は必ず多し。苦を樂と為すを知る者は、善く樂しむ者なり。而れども樂を以て樂と為す者は癡なり、一たび苦しめば返らず。通を塞と為すを知る者は、善く塞ぐ者なり。而れども塞を以て塞と為す者は拙なり、一たび通ずれば必ず竭く。