呻吟語 / 外篇・廣喻・聖人は苟しくも法を立てず
一法立而一弊生,誠是,然因弊生而不立法,未見其為是也。夫立法以禁弊,猶為防以止水也,堤薄土疏而乘隙決潰誠有之矣,未有因決而廢防者。無弊之法,雖堯、舜不能。生弊之法亦立法者之拙也。故聖人不苟立法,不立一事之法,不為一切之法,不懲小弊而廢良法,不為一對之弊而廢可久之法。
新字:一法立而一弊生,誠是,然因弊生而不立法,未見其為是也。夫立法以禁弊,猶為防以止水也,堤薄土疏而乗隙決潰誠有之矣,未有因決而廃防者。無弊之法,雖堯、舜不能。生弊之法亦立法者之拙也。故聖人不苟立法,不立一事之法,不為一切之法,不懲小弊而廃良法,不為一対之弊而廃可久之法。
書き下し
一法立ちて一弊生ずとは、誠に是なり。然れども弊生ずるに因りて法を立てざるは、未だ其の是と為すを見ざるなり。夫れ法を立てて弊を禁ずるは、猶ほ防を為して水を止むるがごとし。堤薄く土疏にして隙に乘じて決潰するは誠に之れ有り。未だ決に因りて防を廢する者有らず。無弊の法は、堯・舜と雖も能はず。弊を生ずるの法も亦た立法者の拙なり。故に聖人は苟しくも法を立てず、一事の法を立てず、一切の法を為さず、小弊を懲らして良法を廢せず、一對の弊を為して久しかる可きの法を廢せず。
現代語訳
一つの法が立てば一つの弊害が生じるというのは、確かにその通りです。しかし弊害が生じるからといって法を立てないのは、正しいとは思えません。法を立てて弊害を禁じるのは、堤を作って水を止めるようなものです。堤が薄く土が粗ければ、隙に乗じて決壊することは確かにあります。しかし決壊したからといって堤を廃した者はいません。弊害の無い法は堯舜でもできません。弊害を生む法も、立法者の拙さです。だから聖人はいいかげんに法を立てず、一件のための法を立てず、一切合切の法を作らず、小さな弊害を懲らすために良い法を廃さず、一度の弊害のために長く続く法を廃しません。
解説
法を立てれば弊害が出るという主張を、まず認めます。しかし弊害を理由に立てないのは別だとします。堤の比喩が置かれ、決壊しても堤を廃す者はいないと示されます。そして弊害の無い法は誰にも作れないが、弊害を生む法は作り手の拙さだとされます。最後に四つの禁が並び、どれも法を軽々しく作らず軽々しく廃さないことに尽きます。
この章句が説くこと
立法弊害堤拙さ四禁
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