呻吟語 / 外篇・廣喻・君子は幽に處るを貴ぶ
坐對明燈,不可以見暗,而暗中人見對燈者甚真。是故君子貴處幽。
新字:坐対明灯,不可以見暗,而暗中人見対灯者甚真。是故君子貴処幽。
書き下し
明燈に坐對すれば、以て暗を見る可からず。而して暗中の人は燈に對する者を見ること甚だ真なり。是の故に君子は幽に處るを貴ぶ。
現代語訳
明るい灯りに向かって坐れば、暗いところは見えません。しかし暗い中にいる人は、灯りに向かっている者を実にはっきり見ています。だから君子は暗いところにいることを貴びます。
解説
明るい側と暗い側で、見え方が逆になることを示します。灯りの前にいれば暗がりが見えず、暗がりからは灯りの前がよく見える。だから暗い側にいるほうが有利です。目立つ場所にいることの不利を、光の性質から説いた一段で、前に出てきた、上に立つ者は日月を掲げたようだという段と裏表になっています。目立つ場所にいることの不利が、光から説かれます。
この章句が説くこと
明暗見え方逆幽目立つ
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・談道・幽に處りて明を燭らすを神照と謂ふ明に處りて幽を燭らせば、未だ物を見る能はずして物先に之を見る。幽に處りて明を燭らす、是れを神照と謂ふ。是の故に言はざる者は喑に非ず、視ざる者は盲に非ず、聽かざる者は聾に非ず。
-
『呻吟語』外篇・廣喻・惟だ光明なる者のみ人をして疑はしめず瓦礫の道に在るは、過ぐる者皆な弗ち見ざるなり。之を裹むに紙を以てすれば、人必ず之を拾はん。十たび襲ねて之を櫝せば、人必ず之を盜まん。故に之を藏さば、人は之を亡はんことを思ひ、之を掩へば、人は之を檢せんことを思ひ、之を圍めば、人は之を窺はんことを思ひ、之を障へば、人は之を望まんことを思ふ。惟だ光明なる者のみ人をして疑はしめず。故に君子は其の身を光天化日の下に置く。丑好は我に在り、我飾る無し。愛憎は人に在り、我與る無し。
-
『呻吟語』外篇・治道・日月を懸けて以て人に示す屋漏すら尚ほ十目十手有り。人上たる者は、大庭廣眾の中、萬手千目の地なり。之を日月を懸けて以て人に示すに譬ふ。分毫も掩護し得ず。之を如何ぞ慎まざらんや。
-
『呻吟語』外篇・品藻・惟だ陰險のみ伏して多瑞明白の小人、剛戾の小人は、這れ都て恨むに足らず。惟だ陰險のみ伏して多瑞、變幻して測る莫く、駁雜にして疑似なり。之を譬ふれば光天化日は、黑白分明にして人の共に見る所なり。暗室晦夜は、多少の埋伏、多少の類象あり。此れ陰陽の別るる所以なり。虞廷の黜陟は、惟だ幽明と曰ふ。其れ是を以てするか。
-
『呻吟語』内篇・應務・明を用ふるは之を暗に用ふ善く明を用ふる者は、之を暗に用ふ。善く密を用ふる者は、之を疏に用ふ。
-
『呻吟語』外篇・品藻・明迷は明知して陷溺す迷迷は悟り易く、明迷は醒め難し。明迷は愚、迷明は智なり。迷人の迷は、一たび明らかなれば則ち跳脫す。明人の迷は、明知して陷溺す。明人の明は、其の身を保たず。迷人の明は、默かに其の柄を操る。明明は與に太平を共にす可く、明迷は與に患憂を共にす可し。