呻吟語 / 外篇・廣喻・一勞永逸
人有畏更衣之寒而忍一歲之凍,懼一針之痛而甘必死之瘍者。一勞永逸,可與有識者道。齒之密比,不嫌於相逼,固有故也。落而補之,則覺有物矣。夫惟固有者多不得,少不得。
新字:人有畏更衣之寒而忍一歳之凍,懼一針之痛而甘必死之瘍者。一労永逸,可与有識者道。齒之密比,不嫌於相逼,固有故也。落而補之,則覚有物矣。夫惟固有者多不得,少不得。
書き下し
人に更衣の寒きを畏れて一歲の凍を忍び、一針の痛みを懼れて必死の瘍を甘んずる者有り。一たび勞して永く逸なるは、有識者と道ふ可し。齒の密比するは、相ひ逼るを嫌はず。固より有る故なり。落ちて之を補へば、則ち物有るを覺ゆ。夫れ惟だ固より有る者は多きを得ず、少なきを得ず。
現代語訳
着替える時の寒さを恐れて一年の凍えを堪える人がおり、一針の痛みを恐れて必ず死ぬ腫れ物を甘んじて受ける人がいます。一度労して永く安らぐことは、見識のある人と語れます。歯が密に並んでいるのは、互いに迫っていても嫌になりません。もともと有るものだからです。抜けて補えば、異物があると感じます。もともと有るものは、多くてもいけず少なくてもいけません。
解説
小さな苦痛を避けて大きな苦痛を選ぶ例を、二つ挙げます。着替えの寒さと一年の凍え、一針と致命的な腫れ物。どちらも比べれば明らかなのに、目の前の小ささが判断を狂わせます。後半は歯の例で、もともと有るものは密でも嫌にならないが、補えば異物と感じるとされます。自然に備わったものの過不足なさが示された一段です。
この章句が説くこと
一労永逸目先歯自然過不足
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