呻吟語 / 外篇・人情・樂しみて不善を為す
凡人為不善,其初皆不忍也,其後忍不忍半,其後忍之,其後安之,其後樂之。鳴呼!至於樂為不善而後良心死矣。
新字:凡人為不善,其初皆不忍也,其後忍不忍半,其後忍之,其後安之,其後楽之。鳴呼!至於楽為不善而後良心死矣。
書き下し
凡そ人の不善を為すは、其の初めは皆な忍びざるなり。其の後は忍と不忍と半ばす。其の後は之を忍ぶ。其の後は之に安んず。其の後は之を樂しむ。嗚呼、樂しみて不善を為すに至りて後に良心死せり。
現代語訳
およそ人が善くないことをするとき、最初はみな忍びないと思います。その後は忍びる気持ちと忍びない気持ちが半々になります。その後は忍びるようになります。その後はそれに安んじます。その後はそれを楽しみます。ああ、楽しんで善くないことをするに至って、初めて良心が死にます。
解説
良心が死ぬまでの過程を、五段で描きます。忍びない、半々、忍びる、安んじる、楽しむ。一段ごとの差は小さく、どこにも劇的な転換がありません。だから本人も気づかないまま進みます。そして最後の段で良心が死ぬ。最初の段では誰もが忍びなかったという事実が、この過程の怖さを際立たせています。最初は誰もが忍びなかった、という事実が怖い。どこにも劇的な転換が無いのが、この過程の特徴です。
この章句が説くこと
不善五段麻痺良心気づかない
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・存心・暮夜無知の四字は、百惡の總根なり暮夜無知、此の四字は、百惡の總根なり。人の罪は欺くより大なるは莫し。欺く者は、其の無知なるを利するなり。大奸大盜も、皆無知の心より之を充つ。天下の大惡は只だ二種有り。無知を欺くと、有知を畏れざるとなり。無知を欺くは、還た是れ忌憚する所有るの心、此れは是れ誠偽の關なり。有知を畏れざるは、是れ個の忌憚する所無きの心、此れは是れ死生の關なり。猶ほ畏るる有るを知れば、良心尚ほ未だ死せざるなり。
-
『呻吟語』内篇・存心・惡を惡むこと太だ嚴なるは、便ち是れ一惡惡を惡むこと太だ嚴なるは、便ち是れ一惡なり。善を樂しむこと甚だ亟なるは、便ち是れ一善なり。
-
『呻吟語』内篇・存心・這れ是れ一副の甚の心腸ぞ惡を為して惟だ人の知るを恐れ、善を為して惟だ人の知らざるを恐る。這れ是れ一副の甚の心腸ぞ。安んぞ長進を得んや。
-
『呻吟語』外篇・人情・己の善を好み己の惡を惡む人の善を好み、人の惡を惡むは、過甚に難からず。只だ是れ己の善を好み、己の惡を惡むは、便ち此の如く痛切ならず。
-
『呻吟語』外篇・人情・死亡の時人を欺き得ず人己の善を說けば則ち喜び、人己の過ちを說けば則ち怒る。自家の善惡は自家真に知る。禍敗の時を待たば人を欺き得ず。人體の實を說けば則ち喜び、人體の虛を說けば則ち怒る。自家の病痛は自家獨り覺ゆ。死亡の時に到らば人を欺き得ず。
-
『呻吟語』内篇・修身・惡を為すに勉強無く、善を為すに自然無し惡を為すには再び個の勉強底沒く、善を為すには再び個の自然底沒し。學者此の念頭を勘破せば、寧ぞ愧ぢ奮はざらんや。