呻吟語 / 外篇・人情・濕薪の解は易く、燥薪の束は難し
積威之後,寬一分則安,恩二分則悅;積恩之後,止而不加則以為薄,才減毫髮則以為怨。恩極則窮,窮則難繼;愛極則縱,縱則難堪。不可繼則不進,其勢必退。故威退為福,恩退為禍;恩進為福,威進為禍。聖人非靳恩也,懼禍也。濕薪之解也易,燥薪之束也難。聖人之靳恩也,其愛人無已之至情,調劑人情之微權也。
新字:積威之後,寛一分則安,恩二分則悅;積恩之後,止而不加則以為薄,才減毫髪則以為怨。恩極則窮,窮則難継;愛極則縦,縦則難堪。不可継則不進,其勢必退。故威退為福,恩退為禍;恩進為福,威進為禍。聖人非靳恩也,懼禍也。湿薪之解也易,燥薪之束也難。聖人之靳恩也,其愛人無已之至情,調剤人情之微権也。
書き下し
積威の後は、一分を寬くすれば則ち安く、二分を恩すれば則ち悅ぶ。積恩の後は、止まりて加へざれば則ち以て薄しと為し、才かに毫髮を減ずれば則ち以て怨みと為す。恩極まれば則ち窮まり、窮まれば則ち繼ぎ難し。愛極まれば則ち縱にし、縱にすれば則ち堪へ難し。繼ぐ可からざれば則ち進まず、其の勢ひ必ず退く。故に威退けば福と為り、恩退けば禍と為る。恩進めば福と為り、威進めば禍と為る。聖人は恩を靳しむに非ず、禍を懼るるなり。濕薪の解は易く、燥薪の束は難し。聖人の恩を靳しむは、其の人を愛して已む無きの至情にして、人情を調劑するの微權なり。
現代語訳
威を積み重ねた後は、一分寛やかにすれば安らぎ、二分恵めば喜びます。恩を積み重ねた後は、止まって加えないだけで薄いと思われ、毛ほど減らしただけで怨まれます。恩が極まれば窮まり、窮まれば続けられません。愛が極まれば恣にさせ、恣にさせれば堪えられません。続けられなければ進まず、勢いは必ず退きます。だから威が退けば福となり、恩が退けば禍となります。恩が進めば福となり、威が進めば禍となります。聖人が恩を惜しむのは、禍を恐れるからです。湿った薪は解けやすく、乾いた薪は束ねにくい。聖人が恩を惜しむのは、人を愛して止まない至情であり、人情を調える微妙な手立てです。
解説
威と恩の増減が、逆方向に働くことを示します。威は減らせば喜ばれ、恩は減らせば怨まれる。しかも恩は増やし続けられないので、いずれ必ず退く方向に入ります。そこで禍になるわけです。湿った薪と乾いた薪の比喩が置かれ、締めつけを緩めるのは易しく、緩んだものを締め直すのは難しいと示されます。恩を惜しむことが愛だとされる結論です。
この章句が説くこと
威恩増減逆薪惜しむ
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