呻吟語 / 外篇・人情・愚者を以て智者の忽せにする所に當たる
乍見之患,愚者所驚;漸至之殃,智者所忽也。以愚者而當智者之所忽,可畏哉!
新字:乍見之患,愚者所驚;漸至之殃,智者所忽也。以愚者而当智者之所忽,可畏哉!
書き下し
乍ちに見るの患ひは、愚者の驚く所なり。漸く至るの殃ひは、智者の忽せにする所なり。愚者を以て智者の忽せにする所に當たるは、畏る可きかな。
現代語訳
突然目に入る患いは、愚かな者でも驚きます。じわじわ至る災いは、智恵ある者でも見過ごします。愚かな者が、智恵ある者でさえ見過ごすものに当たるのは、恐ろしいことです。
解説
じわじわ至る災いの恐ろしさを、人の側から言い直します。突然の患いは愚者でも驚けるので、誰でも気づきます。しかしじわじわ来るものは智者でさえ見過ごします。そこへ愚者が当たればどうなるか。治道篇で繰り返された漸の主題が、ここでは気づく力の差として述べられ、より切実な形になっています。気づく力の差として述べられ、切実さが増しています。
この章句が説くこと
漸突然愚者智者見過ごし
関連する章句
-
『韓非子』孤憤第十一是れ當塗者の徒屬、愚にして患を知らざる者に非ずんば、必ず污にして姦を避けざる者なり。
-
『呻吟語』外篇・治道・其の由りて來たる所は漸なり人情の忽せにし易き所は、漸に如くは莫し。天下の大いに畏る可きは、漸に如くは莫し。漸の始めや、君子と雖も以て意と為さず。其の當に防ぐべしと謂ふ者有るも、君子と雖も亦た以て迂と為す。其の極めて重く反らざるの勢ひは、天地聖人も亦た之を如何ともする無きを知らざるなり。其の由りて來たる所の者は漸なり。
-
『呻吟語』外篇・世運・頓は終に力を著け、漸は始めに力を著く天下の勢は頓は為す可きも、漸は為す可からず。頓の來たるや驟驟にして多く根無し。漸の來たるや深深にして則ち撼かし難し。頓は力を著くること終に在り、漸は力を著くること始めに在り。
-
『呻吟語』外篇・治道・頓と漸天下の勢ひは、頓は為す可きなり、漸は為す可からざるなり。頓の來たるや驟なり、漸の來たるや遠し。頓の力を著くるは終はりに在り、漸の力を著くるは始めに在り。
-
『呻吟語』内篇・應務・智者の忽は愚者の詳に若かず凡そ人の應酬は多く思を經ず、一向に情に任せて做し去る。所以に動もすれば悔多し。若し心頭に一分の檢點有らば、便ち一分の得處有り。智者の忽は固より愚者の詳に若かざるなり。
-
『呻吟語』外篇・廣喻・積漸の二字天下の勢ひは、積漸之を成すなり。一毫輿羽の軸を拆るを忽せにする無かれ、積なり。寒露の堅冰に尋ぎ至るを忽せにする無かれ、漸なり。古より天下國家、身の敗亡は、積漸の二字を出でず。積の微、漸の始めは、寒心と為す可きかな。