呻吟語 / 外篇・治道・朝庭你を覓めて奶母を做さしむ
莫以勤勞怨辛苦,朝庭覓你做奶母。
新字:莫以勤労怨辛苦,朝庭覓你做奶母。
書き下し
勤勞を以て辛苦を怨む莫かれ。朝庭你を覓めて奶母を做さしむ。
現代語訳
勤め労することで辛苦を怨んではいけません。朝廷はお前を探してきて乳母をさせているのです。
解説
官職を乳母に譬えます。乳母は自分の楽のためではなく、養う相手のためにいます。だから辛苦を怨む筋合いがありません。譬えが卑近なぶん、率直に届きます。前に出てきた、朝廷は赤子として託し民は父母と呼ぶという段と同じ図柄ですが、こちらは父母ではなく乳母で、雇われた立場であることまで含まれています。雇われた立場であることまで、含まれた譬えです。
この章句が説くこと
乳母官辛苦雇われ譬え
関連する章句
-
『呻吟語』外篇・治道・赤子を以て相ひ付托す第一に百姓を愛するを要す。朝廷は赤子を以て相ひ付托し、而して士民は父母を以て相ひ稱謂す。
-
『呻吟語』外篇・治道・官を做すは好しと說かば世上に個の好く做す底の官沒し。抱關の吏と雖も、也た須らく夜行き早く起くべし。方めて稱職と為す。才かに官を做すは好しと說かば、便ち是れ官を做すの人に非ず。
-
『呻吟語』内篇・倫理・當に日〻勤勞せしめ、常に卑屈ならしむべし子・婦は人に事ふる者なり。未だ父兄と為らざる以前は、奴婢をして奉事せしめ、其の驕惰の情を長ぜしむる莫かれ。當に日〻勤勞せしめ、常に卑屈ならしむべし。此れ終身の福なり。然らずんば、是れ之を殺すなり。昏愚の父母、驕奢の子弟、知らざる可からず。
-
『呻吟語』外篇・治道・民を憂ひて以て相ひ奉ず卑卑たる世態、裊裊たる人情は、下に在る者は工にして道を以てせざるの悅び、上に在る者は悅びて道を以てせざるの工なり。奔走揖拜の日多くして、公務填委す。簡書酬酢の文盛んにして、民事聞くこと罔し。時光は只だ此の時光有り、精神は只だ此の精神有り。專らにする所此に在らば、則ち疏なる所彼に在り。朝廷の官を設くるは本と己を勞して以て民を安んずるなり。今や民を憂ひて以て相ひ奉ずるなり。
-
『呻吟語』外篇・治道・試みに一たび反思せば以て其の望みに答ふる無くんば、何を以て此の職に稱はん。何を以て此の位に居らん。夙夜汲汲として圖り、惟だ之れ暇あらず。而るに安富尊榮の奉、身家妻子の謀に暇あり、一たび心に遂げざれば、而ち淫怒を是れ逞しくせんや。夫れ之に付するに生民の寄を以てするは、寧ぞ一已の欲を盈たすが為ならんや。試みに一たび反思せば、便ち當に愧汗すべし。
-
『呻吟語』外篇・治道・公を背き譽を巿り、國に負きて身を殖やす庶幾はくは其れ職に稱はんか。嗚呼、大丈夫に非ずんば孰か以て此れを語るに足らん。乃ち一人を用ふれば則ち聽を宰執の口脗に注ぎ、一人を退くれば則ち相公の眉睫を凝視するが若きは、公名を借りて以て私を濟し、實に士口を結びて民心を灰にし、公を背き譽を巿り、國に負きて身を殖やすなり。是の人や、吾之を道ふに忍びず。