呻吟語 / 外篇・治道・公を背き譽を巿り、國に負きて身を殖やす
庶幾哉其稱職矣。嗚呼!非大丈夫孰足以語此?乃若用一人則注聽宰執口脗,退一人則凝視相公眉睫,借公名以濟私,實結士口而灰民心,背公市譽、負國殖身。是人也,吾不忍道之。
新字:庶幾哉其称職矣。嗚呼!非大丈夫孰足以語此?乃若用一人則注聴宰執口脗,退一人則凝視相公眉睫,借公名以済私,実結士口而灰民心,背公市誉、負国殖身。是人也,吾不忍道之。
書き下し
庶幾はくは其れ職に稱はんか。嗚呼、大丈夫に非ずんば孰か以て此れを語るに足らん。乃ち一人を用ふれば則ち聽を宰執の口脗に注ぎ、一人を退くれば則ち相公の眉睫を凝視するが若きは、公名を借りて以て私を濟し、實に士口を結びて民心を灰にし、公を背き譽を巿り、國に負きて身を殖やすなり。是の人や、吾之を道ふに忍びず。
現代語訳
これでようやく職にかなうと言えるでしょうか。ああ、大丈夫でなければ誰がこれを語るに足りるでしょうか。ところが一人を用いるときは宰相の口ぶりに耳を澄まし、一人を退けるときは宰相の眉や睫を見つめる者は、公の名を借りて私を遂げ、実際には士の口を塞いで民の心を灰にし、公に背いて誉れを買い、国に背いて身を肥やしています。こういう人は、私は口にするに忍びません。
解説
前の二段の理想に対して、現実の姿を並べます。一人を用いるたびに宰相の口ぶりを窺い、退けるたびに顔色を見つめる。人事が上役の顔色の関数になっているわけです。そして四つの罪が並べられます。公名を借りて私を遂げ、士の口を塞ぎ民の心を灰にし、公に背いて誉れを買い、国に背いて身を肥やす。最後は、口にするに忍びないという一句で締められています。
この章句が説くこと
顔色私公名背く人事
関連する章句
-
尉繚子・十二陵悔いは疑わしきを任ずるに在り。
-
論語・顔淵篇樊遅、仁を問う。子曰く、「人を愛す。」知を問う。子曰く、「人を知る。」樊遅未だ達せず。子曰く、「直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、能く枉れる者をして直からしむ。」樊遅退きて、子夏を見て曰く、「郷に吾夫子に見えて知を問う。子曰く、『直きを挙げて諸を枉れるに錯けば、能く枉れる者をして直からしむ』と。何の謂いぞや。」子夏曰く、「富めるかな言や。舜、天下を有ちて、衆に選びて皋陶を挙ぐ。不仁者遠ざかれり。湯、天下を有ちて、衆に選びて伊尹を挙ぐ。不仁者遠ざかれり。」
-
論語・公冶長篇孟武伯問う、「子路は仁なりや。」子曰く、「知らざるなり。」又問う。子曰く、「由や、千乗の国、其の賦を治めしむ可きなり。其の仁を知らざるなり。」「求や何如。」子曰く、「求や、千室の邑、百乗の家、之が宰たらしむ可きなり。其の仁を知らざるなり。」「赤や何如。」子曰く、「赤や、束帯して朝に立ち、賓客と言わしむ可きなり。其の仁を知らざるなり。」
-
論語・為政篇哀公問いて曰く、「何を為さば則ち民服せん。」孔子対えて曰く、「直きを挙げて諸(これ)を枉れるに錯(お)かば、則ち民服せん。枉れるを挙げて諸を直きに錯かば、則ち民服せず。」
-
尚書・說命中惟れ治乱は庶官に在り。官は私昵に及ぼさず、惟れ其の能のみ。爵は悪徳に及ぼす罔く、惟れ其の賢のみ。
-
論語・子路篇仲弓、季氏の宰と為り、政を問う。子曰く、「有司を先にす。小過を赦す。賢才を挙ぐ。」曰く、「焉んぞ賢才を知りて之を挙げん。」曰く、「爾の知る所を挙げよ。爾の知らざる所は、人其れ諸を舎てんや。」