呻吟語 / 外篇・治道・未だ其の地に至らざれば敢へて圖らず
古之學者,窮居而籌兼善之略。今也同為僚殠,後進不敢問先達之事,右署不敢知左署之職。在我避侵職之嫌,在彼生望蜀之議。是以未至其地也不敢圖,既至其地也不及習,急遽苟且,了目前之套數而已,安得樹可久之功,張無前之業哉?
新字:古之学者,窮居而籌兼善之略。今也同為僚殠,後進不敢問先達之事,右署不敢知左署之職。在我避侵職之嫌,在彼生望蜀之議。是以未至其地也不敢図,既至其地也不及習,急遽苟且,了目前之套数而已,安得樹可久之功,張無前之業哉?
書き下し
古の學者は、窮居して兼善の略を籌る。今や同じく僚殠と為るも、後進は敢へて先達の事を問はず、右署は敢へて左署の職を知らず。我に在りては侵職の嫌を避け、彼に在りては望蜀の議を生ず。是を以て未だ其の地に至らざれば敢へて圖らず、既に其の地に至れば習ふに及ばず。急遽苟且にして、目前の套數を了するのみ。安んぞ久しかる可きの功を樹て、前無きの業を張るを得んや。
現代語訳
昔の学ぶ者は、行き詰まって暮らしながらも天下をよくする策を考えました。今は同じ役所の同僚でありながら、後進は先達の事を問おうとせず、右の役所は左の役所の職務を知ろうとしません。自分としては職を侵す疑いを避け、相手としては欲が過ぎるという議論を生みます。だからその地位に至らないうちは考えようとせず、至ってしまえば学ぶ暇がありません。慌てて間に合わせで、目先の型を片付けるだけです。どうして長く続く功を立て、前例の無い業を張れるでしょうか。
解説
隣の職務を知ろうとしない理由を、二つの気遣いに求めます。自分は越権を疑われたくなく、相手は欲深いと言われたくない。互いの遠慮が、知識の共有を止めています。そして前に出てきた、届かないうちは学ばず届いてからは忙しいという段と同じ結論に至ります。原因が組織の空気の側から説明されているのが、この段の役割です。
この章句が説くこと
越権遠慮共有学べない空気
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