呻吟語 / 外篇・治道・法は一なり
法者,一也。法曹者,執此一也。以貧富貴賤二之,則非法矣。或曰:「親貴難與疏賤同法。」曰:「是也,八議已別之矣。」八議之所不別而亦二之,將何說之辭?夫執天子之法而顧忌己之爵祿,以徇高明而虐煢獨,如國法天道何?裂綱壞紀,摧善長惡,國必病焉。
新字:法者,一也。法曹者,執此一也。以貧富貴賤二之,則非法矣。或曰:「親貴難与疏賤同法。」曰:「是也,八議已別之矣。」八議之所不別而亦二之,将何説之辞?夫執天子之法而顧忌己之爵禄,以徇高明而虐煢独,如国法天道何?裂綱壊紀,摧善長悪,国必病焉。
書き下し
法とは、一なり。法曹とは、此の一を執るなり。貧富貴賤を以て之を二にせば、則ち法に非ざるなり。或るひと曰く、「親貴は疏賤と法を同じくし難し」と。曰く、「是なり、八議已に之を別てり」と。八議の別たざる所にして亦た之を二にせば、將た何の說をか之れ辭せん。夫れ天子の法を執りて己の爵祿を顧忌し、以て高明に徇ひて煢獨を虐ぐるは、國法天道を如何せん。綱を裂き紀を壞り、善を摧き惡を長ずれば、國必ず病まん。
現代語訳
法とは一つです。法を司る者とは、この一つを執ることです。貧富や貴賤で二つにするなら、それは法ではありません。ある人が言いました。親しく貴い者を、疎く賤しい者と同じ法にはしにくい。答えて言う。その通りです、八議がすでにそれを分けています。八議が分けていないところまで二つにするなら、何と言い訳するのでしょうか。天子の法を執りながら自分の爵と禄を気にして、高く明るい者に従い身寄りの無い者を虐げるのは、国の法と天の道をどうするのでしょうか。綱を裂き紀を壊し、善を挫き悪を育てれば、国は必ず病みます。
解説
法を一つと定義し、二つに分けた時点で法でないとします。そして予想される反論に、制度で答えます。特別扱いが必要なら八議がすでに定めている、と。つまり例外も法の内側にあります。だから八議の外での二重化は、言い訳が立ちません。動機も名指されます。自分の爵と禄を気にすること。そこから綱紀の崩壊までが繋げられています。
この章句が説くこと
法一二重化八議爵禄
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・理に罪を得ざるは難し法に罪を得ざるは易く、理に罪を得ざるは難し。君子は只だ是れ理に罪を得ざるのみ。
-
『呻吟語』内篇・應務・責むるは太だ盡くす可からず人情は天下古今の同じき所なり。聖人は其の肆なるを防ぎ、特に之が為に中を立てて以て之を的とす。故に法を立つるは太だ極む可からず、禮を制するは太だ嚴なる可からず、人を責むるは太だ盡くす可からず。然る後に以て同じく道に歸す可し。然らずんば、是れ之を驅りて畔かしむるなり。
-
『呻吟語』内篇・存心・君子は理を畏るること法を畏るるより甚だし法に罪を得るは、尚ほ逃避す可し。理に罪を得るは、更に身を存する處無し。只だ我が底の心、便ち我を放し過ごさず。是の故に君子は理を畏るること法を畏るるより甚だし。
-
『呻吟語』内篇・談道・法は死物、道は活物威儀三千、禮儀三百、五刑の屬三千は、皆な法なり。法は是れ死底にして、人をして守る可からしむ。道は是れ活底にして、人をして變通せしむ。賢者は法の中に持循し、聖人は法の外に變易す。自ら聖人に非ずして變易を言ふは、皆な法を亂るなり。
-
呂氏春秋・處方⑤今、人此に有り、擅に行いを矯めば則ち國家を免れしめ、輕重を利すれば則ち衡石の如く、方圜を為せば則ち規矩の若くす。此れ則ち工なり巧なり。而れども法るに足らず。法なる者は、衆の同じくする所なり。賢不肖の其の力を以うる所なり。謀の用う可からざるに出で、事同じくす可からざるに出づるは、此れ先王の舍つる所なり。
-
『呻吟語』外篇・治道・弊無きの法無く、弊無きの身有り堯・舜に弊無きの法無くして、弊無きの身有るを恃み、救弊の人を用ひて以て天下の治を善くす。此の如きのみ。今や然らず。法に九利有るも、其の一害無きを必とする能はず。法に始めの利有るも、其の終はりに弊せざるを必とする能はず。才を嫉み能を妒むの人、身に惰り口に利あるの士、其の一害終弊なる者を執りて之を訕笑す。國を謀ること切ならずして事を慮ること深からざる者、從ひて之に附和す。天下本と事無し、常に安んじ故に襲ふも何ぞ妨げんと曰はずんば、則ち時勢本と為し難し、動を好み事を喜ぶも何ぞ益あらんと曰ふ。大いに壞れ極めて弊し、瓦解土崩するに至りて、而る後に之を天命に付す。嗚呼。