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呻吟語 / 外篇・治道・哀矜して喜ぶ勿かれ

自井田廢而竊劫始多矣。飽暖無資,飢寒難耐,等死耳。與其瘠僵於溝壑無人稱廉,不若苟活於旦夕未必即犯。彼義士廉夫尚難責以餓死,而況種種貧民半於天下乎?彼膏粱文繡坐於法堂而嚴刑峻法以正竊劫之罪者,不患無人,所謂「哀矜而勿喜」者誰與?余以為,衣食足而為盜者,殺無赦;其迫於飢寒者,皆宜有以處之。不然罪有所由而獨誅盜,亦可愧矣。

新字:自井田廃而竊劫始多矣。飽暖無資,飢寒難耐,等死耳。与其瘠僵於溝壑無人称廉,不若苟活於旦夕未必即犯。彼義士廉夫尚難責以餓死,而況種種貧民半於天下乎?彼膏粱文繡坐於法堂而厳刑峻法以正竊劫之罪者,不患無人,所謂「哀矜而勿喜」者誰与?余以為,衣食足而為盗者,殺無赦;其迫於飢寒者,皆宜有以処之。不然罪有所由而独誅盗,亦可愧矣。

書き下し

井田廢れてより竊劫始めて多し。飽暖に資無く、飢寒耐へ難ければ、死を等しくするのみ。其の溝壑に瘠僵して人の廉を稱する無きよりは、旦夕に苟活して未だ必ずしも即ち犯さざるに若かず。彼の義士廉夫すら尚ほ責むるに餓死を以てし難し。而るに況んや種種の貧民天下に半ばするをや。彼の膏粱文繡もて法堂に坐し、嚴刑峻法もて以て竊劫の罪を正す者は、人無きを患へず。所謂「哀矜して喜ぶ勿かれ」とは誰か與らん。余以為へらく、衣食足りて盜を為す者は、殺して赦す無し。其の飢寒に迫らるる者は、皆な宜しく以て之に處する有るべし。然らずんば罪に由る所有りて獨り盜を誅するは、亦た愧づ可きなり。

現代語訳

井田が廃れてから盗みと略奪が多くなりました。腹を満たし暖まる元手が無く、飢えと寒さに耐えがたければ、どちらにしても死ぬだけです。溝や谷でやせ細って倒れ誰も廉潔を称えないよりは、その日その日を生き延びて必ずしもすぐ罪に問われないほうがましです。義士や廉潔の人でさえ餓死せよと責めるのは難しい。まして各種の貧民が天下の半ばを占めるならなおさらです。ご馳走と錦を着て法廷に坐り、厳しい刑罰で盗みの罪を正す者には、事欠きません。哀れみ悼んで喜ぶなという言葉を、誰が引き受けるでしょうか。私は思います。衣食が足りていて盗む者は殺して赦しません。飢えと寒さに迫られた者には、みな処置すべき方法があるはずです。そうでなければ、罪に理由があるのに盗みだけを誅するのは、恥ずべきことです。

解説

盗みを、飢えという条件から説き起こします。どちらにしても死ぬなら、生き延びるほうを選ぶ。それは義士でも責められないほど自然です。そして裁く側が描かれます。ご馳走を食べ錦を着て法廷に坐り、罰する人には事欠かない。そこで論語の哀矜の句が引かれます。最後に線が示されます。足りていて盗む者は赦さず、飢えて盗む者には別の処置を。

この章句が説くこと

飢え条件哀矜線引き

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