呻吟語 / 外篇・治道・時勢を主る者の懲らす所に過ぐる
泰極必有受其否者,否極必有受其泰者。故水一壅必決,水一決必涸。世道縱極,必有操切者出,出則不分賢愚,一番人受其敝。嚴極必有長厚者出,出則不分賢愚,一番人受其福。此非獨人事,氣數固然也。故智者乘時因勢,不以否為憂,而以泰為俱。審勢相時,不決裂於一懲之後,而驟更以一切之法。昔有獵者入山,見騶虞以為虎也,殺之,尋復悔。明日見虎以為騶虞也,捨之,又復悔。主時勢者之過於所懲也,亦若是夫。
新字:泰極必有受其否者,否極必有受其泰者。故水一壅必決,水一決必涸。世道縦極,必有操切者出,出則不分賢愚,一番人受其敝。厳極必有長厚者出,出則不分賢愚,一番人受其福。此非独人事,気数固然也。故智者乗時因勢,不以否為憂,而以泰為倶。審勢相時,不決裂於一懲之後,而驟更以一切之法。昔有猟者入山,見騶虞以為虎也,殺之,尋復悔。明日見虎以為騶虞也,捨之,又復悔。主時勢者之過於所懲也,亦若是夫。
書き下し
泰極まれば必ず其の否を受くる者有り、否極まれば必ず其の泰を受くる者有り。故に水一たび壅すれば必ず決し、水一たび決すれば必ず涸る。世道縱極まれば、必ず操切なる者出づ。出づれば則ち賢愚を分かたず、一番の人其の敝を受く。嚴極まれば必ず長厚なる者出づ。出づれば則ち賢愚を分かたず、一番の人其の福を受く。此れ獨り人事のみに非ず、氣數固より然るなり。故に智者は時に乘じ勢に因り、否を以て憂ひと為さずして、泰を以て懼と為す。勢を審らかにし時を相て、一懲の後に決裂して、一切の法を以て驟かに更めず。昔獵者有り山に入り、騶虞を見て以て虎と為し、之を殺し、尋いで復た悔ゆ。明日虎を見て以て騶虞と為し、之を捨て、又た復た悔ゆ。時勢を主る者の懲らす所に過ぐるも、亦た是の若きか。
現代語訳
通りが極まれば必ず塞がりを受ける者があり、塞がりが極まれば必ず通りを受ける者があります。だから水はひとたび塞がれば必ず決壊し、ひとたび決壊すれば必ず涸れます。世の道が緩みきれば、必ず引き締める者が出ます。出れば賢愚を問わず、一代の人がその弊を受けます。厳しさが極まれば必ず情の厚い者が出ます。出れば賢愚を問わず、一代の人がその福を受けます。これは人事だけでなく、気の巡りがもともとそうなのです。だから智者は時に乗じ勢いによって、塞がりを憂えず通りを恐れます。勢いを見極め時を見て、一度懲りた後に決裂して、一切の法で急に改めたりしません。昔、猟師が山に入り、騶虞を見て虎と思い殺して、後で悔やみました。翌日、虎を見て騶虞と思い見逃して、また悔やみました。時勢を主る者が懲りて行きすぎるのも、これと同じでしょうか。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
孟子・離婁章句上孟子曰く、「人を愛して親しまずんば、其の仁に反れ。人を治めて治まらずんば、其の智に反れ。人を禮して答えずんば、其の敬に反れ。行いて得ざる者有れば、皆諸を己に反求す。其の身正しければ天下之に歸す。詩に云う、『永く言、命を配し、自ら多福を求む。』」
-
『呻吟語』内篇・修身・腳を放ちて行けば日日長進を見る頭を回らせて看れば、年年過差有り。腳を放ちて行けば、日日長進を見る。
-
『呻吟語』内篇・修身・己に違ふは難し人は眾に違ふに難からずして、己に違ふに難し。能く己に違はば、眾に違ふこと何ぞ難からん。
-
司馬法・天子之義大敗には誅(ちゅう)せず、上下皆不善は己に在りと以(おも)う。
-
『韓非子』解老第二十人禍有れば則ち心畏恐し、心畏恐すれば則ち行い端直に...行い端直なれば則ち思慮熟し、思慮熟すれば則ち事理を得、事理を得れば則ち必ず功を成す。
-
『呻吟語』内篇・修身・滿口都て是れ閒談亂談且く身體力行を論ずる莫かれ。只だ聽くに隨在の聚談の間、曾て幾個か天下・國家・身心・性命の正經の道理を說けるか。終日嘵嘵刺刺として、滿口都て是れ閒談亂談なり。吾輩試みに一たび猛省せよ。士君子は天地の間に在りて此の如く日を度る可きや否や。