呻吟語 / 外篇・治道・威を用ふるは理を行ふ所以なり
夫坐法堂,厲聲色,侍列武卒,錯陳嚴刑,可生可殺,惟吾所欲為而莫之禁,非不泰然得志也。俄而有狂士直言正色,詆過攻失,不畏尊嚴,則王公貴人為之奪氣。於斯時也,威非不足使之死也,理屈而威以劫之,則能使之死而不能使之服矣。大盜昏夜持利刃而加人之頸,人焉得而不畏哉?伸無理之威以服人,盜之類也,在上者之所恥也。彼以理伸,我以威伸,則彼之所伸者蓋多矣。故為上者之用威,所以行理也,非以行勢也。
新字:夫坐法堂,厲声色,侍列武卒,錯陳厳刑,可生可殺,惟吾所欲為而莫之禁,非不泰然得志也。俄而有狂士直言正色,詆過攻失,不畏尊厳,則王公貴人為之奪気。於斯時也,威非不足使之死也,理屈而威以劫之,則能使之死而不能使之服矣。大盗昏夜持利刃而加人之頸,人焉得而不畏哉?伸無理之威以服人,盗之類也,在上者之所恥也。彼以理伸,我以威伸,則彼之所伸者蓋多矣。故為上者之用威,所以行理也,非以行勢也。
書き下し
夫れ法堂に坐し、聲色を厲しくし、侍列に武卒あり、錯陳に嚴刑あらば、生かす可く殺す可く、惟だ吾が為さんと欲する所にして之を禁ずる莫し。泰然として志を得ざるに非ざるなり。俄かにして狂士の直言正色し、過ちを詆り失を攻め、尊嚴を畏れざる有らば、則ち王公貴人も之が為に氣を奪はる。斯の時に於てや、威は以て之を死せしむるに足らざるに非ざるなり。理屈して威以て之を劫せば、則ち能く之を死せしむるも之を服せしむる能はず。大盜昏夜に利刃を持して人の頸に加へば、人焉んぞ得て畏れざらんや。無理の威を伸ばして以て人を服せしむるは、盜の類なり。上に在る者の恥づる所なり。彼は理を以て伸び、我は威を以て伸びば、則ち彼の伸ぶる所の者蓋し多し。故に上たる者の威を用ふるは、理を行ふ所以なり。勢を行ふに非ざるなり。
現代語訳
法廷に坐り、声と色を厳しくし、武装した兵が列に侍り、厳しい刑具が並べられれば、生かすも殺すも自分の思うままで、誰も禁じません。泰然として志を得ないわけではありません。ところがにわかに狂士がまっすぐ言い顔色を正し、過ちをそしり失敗を攻め、尊厳を畏れなければ、王公貴人でもそのために気を奪われます。この時、威が相手を死なせるに足りないのではありません。理が屈して威で脅せば、死なせることはできても服させることはできません。大盗が夜更けに鋭い刃を人の首に当てれば、人はどうして畏れずにいられるでしょうか。理の無い威を振るって人を服させるのは、盗人の類です。上に立つ者の恥じるところです。相手は理で伸び、自分は威で伸びるなら、相手の伸びるほうがはるかに大きい。だから上に立つ者が威を用いるのは、理を行うためです。勢いを行うためではありません。
解説
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『正法眼蔵随聞記』巻二法語等を書くにも、文章におほせて書んとし、韻声差へば礙へられなんとするは知りたる咎なり、語言文章はいかにもあれ、思ふ儘の理を順々と書きたらんは、後来も文はわろしと思ふとも、理だにも聞わたらば、道のためには大切なり、余の才学も斯くの如し、