呻吟語 / 外篇・治道・人を用ふるは其の才に當たるを貴ぶ
用人之道,貴當其才;理財之道,貴去其蠹。人君以識深慮遠者謀社稷,以老成持重者養國脈,以振勵明作者起頹敝,以通時達變者調治化,以秉公持正者寄鈞衡,以燭奸嫉邪者為按察,以厚下愛民者居守牧,以智深勇沉者典兵戎,以平恕明允者治刑獄,以廉靜綜核者掌會計,以惜恥養德者司教化,則用人當其才矣。宮妾無慢棄之帛,殿廷無金珠之玩,近侍絕賄賂之通,寵幸無不貲之賞,臣工嚴貪墨之誅,迎送懲威福之濫,工商重淫巧之罰,眾庶謹僭奢之戒,游惰杜幸食之門,緇黃示誑誘之罪,倡優就耕織之業,則理財得其道矣。
新字:用人之道,貴当其才;理財之道,貴去其蠹。人君以識深慮遠者謀社稷,以老成持重者養国脈,以振勵明作者起頹敝,以通時達変者調治化,以秉公持正者寄鈞衡,以燭奸嫉邪者為按察,以厚下愛民者居守牧,以智深勇沈者典兵戎,以平恕明允者治刑獄,以廉静綜核者掌会計,以惜恥養徳者司教化,則用人当其才矣。宮妾無慢棄之帛,殿廷無金珠之玩,近侍絶賄賂之通,寵幸無不貲之賞,臣工厳貪墨之誅,迎送懲威福之濫,工商重淫巧之罰,眾庶謹僭奢之戒,游惰杜幸食之門,緇黄示誑誘之罪,倡優就耕織之業,則理財得其道矣。
書き下し
人を用ふるの道は、其の才に當たるを貴ぶ。財を理むるの道は、其の蠹を去るを貴ぶ。人君は識深く慮り遠き者を以て社稷を謀り、老成持重なる者を以て國脈を養ひ、振勵明作なる者を以て頹敝を起こし、時に通じ變に達する者を以て治化を調へ、公を秉り正を持する者を以て鈞衡を寄せ、奸を燭らし邪を嫉む者を以て按察と為し、下に厚く民を愛する者を以て守牧に居らしめ、智深く勇沉なる者を以て兵戎を典らしめ、平恕明允なる者を以て刑獄を治め、廉靜綜核なる者を以て會計を掌らしめ、恥を惜しみ德を養ふ者を以て教化を司らしむれば、則ち人を用ふること其の才に當たる。宮妾に慢棄の帛無く、殿廷に金珠の玩無く、近侍に賄賂の通を絕ち、寵幸に不貲の賞無く、臣工に貪墨の誅を嚴にし、迎送に威福の濫を懲らし、工商に淫巧の罰を重くし、眾庶に僭奢の戒を謹み、游惰に幸食の門を杜ぎ、緇黃に誑誘の罪を示し、倡優を耕織の業に就かしむれば、則ち財を理むること其の道を得たり。
現代語訳
人を用いる道は、その才に当てることを貴びます。財を治める道は、その虫を除くことを貴びます。君主は識が深く慮りの遠い者に国家を謀らせ、老成し重みのある者に国の脈を養わせ、奮い立たせ明らかに働く者に衰えを起こさせ、時に通じ変に達する者に治化を調えさせ、公を執り正を保つ者に権の要を託し、奸を照らし邪を憎む者を監察とし、下に厚く民を愛する者を地方の長とし、智が深く勇が沈んだ者に兵を司らせ、平らかで恕があり明らかで信ずべき者に刑獄を治めさせ、廉潔で静かで照合に長けた者に会計を掌らせ、恥を惜しみ徳を養う者に教化を司らせれば、人を用いることが才に当たります。宮中の女官にみだりに捨てる絹が無く、御殿に金珠の玩び物が無く、近侍に賄賂の通り道を絶ち、寵愛する者に計り知れない賞が無く、臣下に汚職の誅を厳しくし、送迎に威と福の濫用を懲らし、工と商に度を越した巧みさの罰を重くし、民に僭越と奢りの戒めを謹み、遊び怠ける者に食い逃げの門を塞ぎ、僧と道士に欺き誘う罪を示し、芸人を耕織の業に就かせれば、財を治める道を得たことになります。
解説
この章句が説くこと
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『呻吟語』外篇・治道・仕學を一事と為す世に全才無きこと久し。人を用ふる者は各おの其の長に因らば可なり。夫れ目は聽く能はず、耳は視る能はず、鼻は食らふ能はず、口は臭ぐ能はざるは、勢なり。今の人を用ふるは其の才の堪ふる所、資格の及ぶ所を審らかにせずして、雜然として之を授く。方に會計を司り、輒ち刑名を理む。既に文銓を典り、又た兵柄を握る。之を養ふに其の道を得ず、之を用ふるに其の才に當たらず。之を受くる者は但だ美秩を悅びて自ら量らず。此れを以て事を濟すを求むるは、豈に難からずや。夫れ公綽は但だ老に宜しくして、裨諶は邑を謀る可からず。今の人才豈に能く古昔に倍蓗せんや。愚以為へらく、學校の士を養ひ、科目の人を進むるは、便ち當に溫公の條議の如く、分かちて數科と為し、各おの其の才の近き所を學ばしめ、而して質性英發にして能く眾長を奮ふ者は特に全才一科を設け、其の官を授くるに及びて、各おの長ずる所に任ずべし。夫れ資に近き所有り、習に通ずる所有らば、之を政事に施すに、必ず觀る可き有らん。蓋し古は仕學を以て一事と為し、今日は體用を分かちて兩截と為す。草澤に窮居しては、止だ詞章を事とし、一たび廟廊に入りて、方めて政事を學ぶ。明敏の才、英達の識有りと雖も、豈に能く政を觀ること數月にして便ち每事盡く善きを得んや。鹵莽の施設、鶻突の支吾を免れず。苟しくも大いに敗れずんば、輒ち遷升を得。此れを以て人を用ふれば、堯舜と雖も治まらず。夫れ古の體を明らかにするや適用の才を養ひ、君に致し民を澤すの術は固より已に畎畝の中に熟す。苟しくも能く我を用ふる者あらば、此れを執りて以て往くのみ。今の學校は、流涕す可きなり。
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『呻吟語』外篇・治道・病根は來る處に在り今の人を用ふるは、只だ去る處無きを怕る。知らず、其の病根は來る處に在り。今の財を理むるは、只だ來る處無きを怕る。知らず、其の病根は去る處に在り。
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『呻吟語』外篇・治道・良法有りて旋ちに至る可し儒學の大いに壞るること極まれり。十年ならずんば以て成材を望むに足らず。武學の行はれざること久し。十年ならずんば以て名を求むるに足らず。將に未だ用ひざるの先に遴選し、方に用ふるの際に條責し、既に用ふるの後に綜核し、效あると效あらざるの時に黜陟するに至らば、盡く良法有りて旋ちに至る可く、立ちどころに驗有る者なり。
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『呻吟語』外篇・治道・親賢を急とす只だ人を用ふること其の當を得て、委任して之に成を責むれば、天下の治まらざるを患へず。二帝三王は親賢を急とし、當務の急第一の事と作す。
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『呻吟語』内篇・應務・聖人は只だ一種の才有り聖人は只だ一種の才有り、千通萬貫して事に隨ひて宜しきに合ふ。譬へば富貴は只だ一種の錢を積み、百貨を貿易するも都て得。眾人の材は貨の如し。輕縠は美なりと雖も、寒を禦ぐ可からず。輕裘は溫かなりと雖も、暑に當たる可からず。又た才を養ふには根本有るを要す、則ち遇に隨ひて窮まらず。才を運らすには機括有るを要す、故に感に隨ひて滯らず。才を持するには涵蓄有るを要す、故に事に隨ひて敗れず。
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『呻吟語』外篇・治道・小人は只だ他に才有るを怕る小人は只だ他に才有るを怕る。才有りて以て之を濟せば、流害窮まり無し。君子は只だ他に才無きを怕る。才無くして以て之を行はば、斯の世何ぞ補はん。