呻吟語 / 外篇・治道・引身して退くのみ
近世士風大可哀已。英雄豪傑本欲為宇宙樹立大綱常、大事業,今也,驅之俗套,繩以虛文,不俯首吞聲以從,惟有引身而退耳。是以道德之士遠引高蹈,功名之士以屈養伸。彼在上者倨傲成習,看下面人皆王順長息耳。
新字:近世士風大可哀已。英雄豪傑本欲為宇宙樹立大綱常、大事業,今也,駆之俗套,縄以虚文,不俯首吞声以従,惟有引身而退耳。是以道徳之士遠引高蹈,功名之士以屈養伸。彼在上者倨傲成習,看下面人皆王順長息耳。
書き下し
近世の士風は大いに哀れむ可きのみ。英雄豪傑は本と宇宙の為に大綱常、大事業を樹立せんと欲す。今や、之を俗套に驅り、繩ぶに虛文を以てす。首を俯し聲を吞みて以て從はずんば、惟だ身を引きて退く有るのみ。是を以て道德の士は遠く引き高く蹈み、功名の士は屈を以て伸を養ふ。彼の上に在る者は倨傲習ひを成し、下面の人を看ること皆な王順長息のみ。
現代語訳
近ごろの士の風は大いに哀れむべきです。英雄豪傑はもともと天地のために大きな綱常と大きな事業を打ち立てようとします。今はそれを型にはめ、空文で縛ります。首を垂れ声を呑んで従わなければ、身を引いて退くほかありません。だから道徳の士は遠くへ行き高く歩み、功名の士は屈することで伸びを養います。上にいる者は傲慢が習いとなって、下の人をみな王順や長息のような追従者としか見ません。
解説
志ある人が二つの道に分かれる理由を示します。型にはめられ空文で縛られれば、従うか退くかしかありません。結果、道徳の士は去り、功名の士は屈して機会を待ちます。どちらも本来の事業には向かいません。そして上の者の目が描かれます。下の人がみな追従者に見える。実際に追従者しか残らないからで、原因と結果が循環している構図です。
この章句が説くこと
士風型退く屈伸追従
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