葉隠 / 聞書第一
手跡の行儀正しく、疎略なきより上は有るまじけれども、其の分にては、堅くれ賤しく見ゆるなり。此の上に、格をははなれたる姿有るべし。諸事に此の理有るべし。
書き下し
手跡(しゅせき)の行儀正しく、疎略(そりゃく)なきより上はあるまじけれども、その分にては、堅(かた)くれ賤(いや)しく見ゆるなり。この上に、格(かく)を離(はな)れたる姿あるべし。諸事(しょじ)にこの理(ことわり)あるべし。
現代語訳
筆跡は行儀正しく、いい加減なところがないのが最上ではあるが、そこにとどまっていると、型どおりで堅苦しく、かえって品がなく見える。その上に、型を離れた自在な姿があるはずだ。何事にもこの道理があてはまる。
解説
書の上達を例に、技芸や物事の到達段階を説いた一節です。まず基本の型を崩さず、乱れなく整えることが土台になります。しかしそこで満足すると、規則に縛られて堅苦しく、かえって味気なくなる。型を極めた先に、あえて型を離れた自在の境地がある、と説きます。これは芸道でいう「守破離」の考えに通じ、葉隠が武士の日常の所作や修行にも同じ道理を見ていたことがわかります。現代の仕事でも、まず基本を徹底して身につけ、そのうえで型を超えた自分らしい工夫へ進む段階があるでしょう。基本を飛ばした自由はただの崩れですが、基本を経た自由は品格になります。順序を取り違えないことが肝心です。
この章句が説くこと
型守破離基本の徹底自在の境地上達の段階品格
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