呻吟語 / 外篇・治道・井田を壞るの禍
秦家得罪於萬世,在變了井田上。春秋以後井田已是十分病民了,但當復十一之舊,正九一之界,不當一變而為阡陌。後世厚取重斂,與秦自不相干。至於貧富不均,開天下奢靡之俗,生天下竊劫之盜,廢比閭族黨之法,使後世十人九貧,死於飢寒者多有,則壞井田之禍也。三代井田之法,能使家給人足、俗儉倫明、盜息訟簡,天下各得其所。只一復了井田,萬事俱理。
新字:秦家得罪於万世,在変了井田上。春秋以後井田已是十分病民了,但当復十一之旧,正九一之界,不当一変而為阡陌。後世厚取重斂,与秦自不相干。至於貧富不均,開天下奢靡之俗,生天下竊劫之盗,廃比閭族党之法,使後世十人九貧,死於飢寒者多有,則壊井田之禍也。三代井田之法,能使家給人足、俗倹倫明、盗息訟簡,天下各得其所。只一復了井田,万事倶理。
書き下し
秦家の萬世に罪を得たるは、井田を變じたる上に在り。春秋以後は井田已に是れ十分民を病ましめたり。但だ當に十一の舊に復し、九一の界を正すべく、當に一變して阡陌と為すべからず。後世の厚く取り重く斂むるは、秦と自ら相ひ干らず。貧富均しからず、天下奢靡の俗を開き、天下竊劫の盜を生じ、比閭族黨の法を廢し、後世の十人九貧、飢寒に死する者多く有らしむるに至りては、則ち井田を壞るの禍なり。三代井田の法は、能く家給し人足り、俗儉に倫明らかに、盜息み訟簡ならしめ、天下各おの其の所を得たり。只だ一たび井田に復せば、萬事俱に理まらん。
現代語訳
秦が万世に罪を得たのは、井田を変えた点にあります。春秋より後、井田はすでに十分に民を苦しめていました。ただ十分の一の旧に復し、九分の一の境を正すべきで、一変して畦道にすべきではありませんでした。後の世の厚く取り重く徴収することは、秦とは関わりがありません。貧富が均しくなく、天下に奢りの風を開き、天下に盗みと略奪を生み、村里の組織の法を廃し、後の世に十人のうち九人が貧しく飢えと寒さで死ぬ者が多くなったのは、井田を壊した禍です。三代の井田の法は、家が足り人が足り、風俗が倹しく人倫が明らかになり、盗みが止み訴訟が簡素になり、天下がそれぞれ居場所を得ました。ひとたび井田に復せば、万事がともに整うでしょう。
解説
この章句が説くこと
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『呻吟語』外篇・治道・政は地に因りて之を定め、官は人を擇びて之を守る古は國君を易へず、家大夫を易へず。故に其の治は民に因り俗に宜しく、綱を立て紀を陳ぶ。百姓と己と相ひ安んじ、然る後に從容漸漬し、日に新たに月に盛んにして、治功成る。故に「必世にして後に仁」と曰ひ、「久道にして化を成す」と曰ふ。之を天地に譬ふるに悠久ならざれば便ち物を成し得ず。封建變じて郡懸と為りてより、官に久暖の席無く、民に盡識の官無し。施設未だ竟へずして讒毀之に隨ひ、官を建てて未だ久しからずして黜陟之に隨ふ。方に熊蹯を朘りて之が薪を奪ひ、方に茧絲を繅りて其の緒を截つ。一番の人至れば、一度の更張あり。各おの性情有り、各おの識見有り。百姓は其の政令を聞くも半ばは理會するに及ばず、其の教化を聽くも尚ほ未だ信從するに及ばずして、新しき者卒かに至り、舊政廢閣す。何ぞ信從する所あらん。何ぞ遵守する所あらん。況んや加ふるに監司の掣肘を以てし、一幘を制して首の大小を問はず、都て之に冠せしめ、一衣を制して時の冬夏を問はず、必ず之を服せしむ。民情の便否を審らかにせずして、先づ書を以て督責す。即ち高才疾足の士も、俄頃措置の功、亦た目前の小康、一事の小補に過ぎず。而るに上は此れを以て殿最と為し、下は此れを以て歡虞と為す。嗚呼、傷心せり。先正に言有り、人里居せず、田井授せずんば、治を言はんと欲すと雖も、皆な苟のみと。愚謂へらく官を建つるも亦た然り。政は地に因りて之を定め、官は人を擇びて之を守る。政善ければ更張するを得ず、民安んずれば法を易ふるを得ず。其の多事にして民を擾し、情に任せて法を變ずると、惰政慢法なる者とは斥け遂ふ。其の人を更めて其の治を易へざれば、則ち郡懸は封建より賢なること遠し。