呻吟語 / 外篇・治道・其の終はりを要めて後に知る
天下之事,要其終而後知。君子之用心、君子之建立,要其成後見事功之濟否。可奈庸人俗識,讒夫利口,君子才一施設輒生議論,或附會以誣其心,或造言以甚其過,是以志趣不堅、人言是恤者輒灰心喪氣,竟不卒功。識見不真、人言是聽者輒罷居子之所為,不使終事。鳴呼!大可憤心矣。古之大建立者,或利於千萬世而不利於一時,或利於千萬人而不利於一人,或利於千萬事而不利於一事。其有所費也似貪,其有所勞也似虐,其不避嫌也易以招摘取議。及其成功而心事如青天白日矣,奈之何鑠金銷骨之口奪未竟之施,誣不白之心哉?嗚呼!英雄豪傑冷眼天下之事,袖手天下之敝,付之長吁冷笑,任其腐潰決裂而不之理,玩日遬月,尸位素餐而苟且目前以全軀保妻子者豈得已哉?蓋懼此也。
新字:天下之事,要其終而後知。君子之用心、君子之建立,要其成後見事功之済否。可奈庸人俗識,讒夫利口,君子才一施設輒生議論,或附会以誣其心,或造言以甚其過,是以志趣不堅、人言是恤者輒灰心喪気,竟不卒功。識見不真、人言是聴者輒罷居子之所為,不使終事。鳴呼!大可憤心矣。古之大建立者,或利於千万世而不利於一時,或利於千万人而不利於一人,或利於千万事而不利於一事。其有所費也似貪,其有所労也似虐,其不避嫌也易以招摘取議。及其成功而心事如青天白日矣,奈之何鑠金銷骨之口奪未竟之施,誣不白之心哉?嗚呼!英雄豪傑冷眼天下之事,袖手天下之敝,付之長吁冷笑,任其腐潰決裂而不之理,玩日遬月,尸位素餐而苟且目前以全軀保妻子者豈得已哉?蓋懼此也。
書き下し
天下の事は、其の終はりを要めて後に知る。君子の用心、君子の建立は、其の成りて後に事功の濟るや否やを見るを要す。奈ん可せん庸人俗識、讒夫利口は、君子才かに一たび施設すれば輒ち議論を生ず。或いは附會して以て其の心を誣ひ、或いは言を造りて以て其の過ちを甚だしくす。是を以て志趣堅からず、人言是れ恤ふる者は輒ち灰心喪氣して、竟に功を卒へず。識見真ならず、人言是れ聽く者は輒ち君子の為す所を罷めて、事を終へしめず。嗚呼、大いに憤心す可し。古の大いに建立する者は、或いは千萬世に利ありて一時に利あらず、或いは千萬人に利ありて一人に利あらず、或いは千萬事に利ありて一事に利あらず。其の費やす所有るや貪るに似、其の勞する所有るや虐ぐるに似、其の嫌を避けざるや以て摘を招き議を取り易し。其の功を成すに及びて心事青天白日の如し。之を奈何ぞ鑠金銷骨の口、未だ竟へざるの施を奪ひ、白からざるの心を誣ふるや。嗚呼、英雄豪傑の天下の事を冷眼し、天下の敝を袖手し、之を長吁冷笑に付し、其の腐潰決裂に任せて之を理めず、日を玩び月を遬め、尸位素餐して苟且に目前にし、以て軀を全うし妻子を保つ者は、豈に已むを得んや。蓋し此れを懼るるなり。
現代語訳
天下の事は、終わりまで見て初めて分かります。君子の心づかいも打ち立てるものも、成った後に功が届いたかどうかを見るべきです。ところが凡庸な見識の者や、そしる口達者な者は、君子が少し手をつけるだけですぐ議論を起こします。こじつけてその心を言いがかりにし、言葉を作り出してその過ちを大きくします。だから志が堅くなく人の言葉を気にする者は、たちまち気を落として功を終えません。見識が真でなく人の言葉を聞く者は、たちまち君子のすることをやめさせ、事を終わらせません。ああ、大いに憤るべきです。昔の大きく打ち立てた者は、千万世に利があって一時に利が無く、千万人に利があって一人に利が無く、千万事に利があって一事に利がありません。費やすところは貪るように見え、労するところは虐げるように見え、嫌疑を避けないので摘まれ議されやすい。功が成れば心の内は青天白日です。それなのに金を溶かし骨を消す口が、終わらない施策を奪い、晴れない心を言いがかりにします。ああ、英雄豪傑が天下の事を冷たく眺め、天下の傷みに手を袖に入れ、長いため息と冷笑に付し、腐り崩れるに任せて手を出さず、日を弄び月を送り、位を空しく占めて目先を取り繕い、身を全うし妻子を守るのは、やむを得ないことでしょうか。これを恐れているのです。
解説
この章句が説くこと
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