呻吟語 / 内篇・應務・深沉なる者の懼るる所
謀天下後世事最不可草草,當深思遠慮。眾人之識,天下所同也,淺昧而狃於目前,其次有眾人看得一半者,其次豪傑之士與練達之人得其大概者,其次精識之人有曠世獨得之見者,其次經綸措置、當時不動聲色,後世不能變易者,至此則精矣,盡矣,無以復加矣,此之謂大智,此之謂真才。若偶得之見,借聽之言,翹能自喜而攘臂直言天下事,此老成者之所哀,而深沉者之所懼也。
新字:謀天下後世事最不可草草,当深思遠慮。眾人之識,天下所同也,浅昧而狃於目前,其次有眾人看得一半者,其次豪傑之士与練達之人得其大概者,其次精識之人有曠世独得之見者,其次経綸措置、当時不動声色,後世不能変易者,至此則精矣,尽矣,無以復加矣,此之謂大智,此之謂真才。若偶得之見,借聴之言,翹能自喜而攘臂直言天下事,此老成者之所哀,而深沈者之所懼也。
書き下し
天下後世の事を謀るは最も草草たる可からず。當に深く思ひ遠く慮るべし。眾人の識は、天下の同じき所なり、淺昧にして目前に狃る。其の次は眾人の看得ること一半なる者、其の次は豪傑の士と練達の人の其の大概を得たる者、其の次は精識の人の曠世獨得の見有る者、其の次は經綸措置して當時聲色を動かさず、後世變易する能はざる者なり。此に至れば則ち精なり盡くせり、以て復た加ふる無し。此れを之れ大智と謂ひ、此れを之れ真才と謂ふ。若し偶たま得たるの見、聽くを借りたるの言もて、翹能して自ら喜び、臂を攘げて天下の事を直言するは、老成なる者の哀しむ所にして、深沉なる者の懼るる所なり。
現代語訳
天下と後の世の事を謀るのに、粗雑であってはなりません。深く思い遠く慮るべきです。大勢の識は天下に共通していて、浅く目先に馴れています。その次は大勢の半分ほどを見る者、その次は豪傑や練達の人で大まかを掴む者、その次は精しい識を持ち世に稀な独自の見解を持つ者、その次は経綸を施して当時は声色を動かさず、後の世が変えようもない者です。ここまで来れば精しさは尽き、これ以上加えようがありません。これを大いなる智と言い、真の才と言います。もしたまたま得た見方や、人から借りた言葉で、才を誇って喜び、腕まくりして天下の事を言い立てるなら、それは年功を積んだ者が悲しむところであり、深く沈んだ者が恐れるところです。
解説
この章句が説くこと
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『呻吟語』外篇・品藻・此れ真才なり體解け神昏く、志消え氣沮むは、天下の事是般の人の幹す底に非ず。臂を接し掌を抵ち、志を矢ひ心を奮ふも、天下の事也た是般の人の幹す底に非ず。天下の事を干す者は、智深く勇沉み、神閒に氣定まる。言はざる所有り、言へば必ず當たる。為さざる所有り、為せば必ず成る。自ら好みて才を露はさず、輕々しく試みて功を倖はず。此れ真才なり。世に之を識ること鮮し。
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『呻吟語』内篇・應務・達權と長慮將に事あらんとして能く弭め、事に當たりて能く救ひ、既に事ありて能く挽く、此れを之れ達權と謂ひ、此れを之れ才と謂ふ。未だ事あらざるに其の來たるを知り、事を始めて其の終はりを要し、事定まりて其の變を知る、此れを之れ長慮と謂ひ、此れを之れ識と謂ふ。
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『呻吟語』内篇・應務・三者は與に天下の事を謀る可からず昏暗にして諭し難きの識、優柔にして斷ぜざるの性、剛慎にして自ら是とするの心は、皆な與に天下の事を謀る可からず。智者は一たび見れば即ち透り、練者は類に觸れて通じ、困者は熟思して得。
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『呻吟語』外篇・品藻・安重深沉は第一の美質安重深沉は是れ第一の美質なり。天下の大難を定むる者は、此の人なり。天下の大事を辯ずる者は、此の人なり。剛明果斷之に次ぐ。其の他の浮薄好任、翹能自喜は、皆な行ひの逮ばざる者なり。即ち諸を行事に見はすも施為に術無く、反って以て事を僨る。此等は只だ談論の科に居る可きのみ。
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『呻吟語』内篇・應務・見先づ定まればなり昧き者は其の一を知りて、其の二を知らず。其の見る所を見て其の見ざる所を見ず。故に事に於て克く濟す有ること鮮し。惟だ智者のみ能く柔に能く剛に、能く圓に能く方に、能く存し能く亡し、能く顯はれ能く藏る。舉世懼れ且つ疑ふも、彼確然として之を為し、卒に料る所の如き者は、見先づ定まればなり。
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『呻吟語』内篇・應務・行ひて成りて始終其の故を言はず智者の事に於けるや、之を言ひて行はざる者有り、言ふ所行ふ所に非ざる者有り、先づ言ひて後に行ふ者有り、先づ行ひて後に言ふ者有り、之を行ひて既に成りて始終其の故を言はざる者有り。要は亦た國家深遠の慮の為にして、以て必ず濟らんことを求むるのみ。