呻吟語 / 外篇・治道・其の均平の術は只だ是れ絜矩
世間萬物皆有欲,其欲亦是天理人情。天下萬世公共之心,每憐萬物有多少不得其欲處,有餘者盈溢於所欲之外而死,不足者奔走於所欲之內而死,二者均,俱生之道也。常思天地生許多人物,自足以養之,然而不得其欲者,正緣不均之故耳。此無天地不是處,宇宙內自有任其責者。是以聖王治天下不說均就說平,其均平之術只是絜矩,絜矩之方,只是個同好惡。
新字:世間万物皆有欲,其欲亦是天理人情。天下万世公共之心,毎憐万物有多少不得其欲処,有余者盈溢於所欲之外而死,不足者奔走於所欲之内而死,二者均,倶生之道也。常思天地生許多人物,自足以養之,然而不得其欲者,正縁不均之故耳。此無天地不是処,宇宙内自有任其責者。是以聖王治天下不説均就説平,其均平之術只是絜矩,絜矩之方,只是個同好悪。
書き下し
世間の萬物は皆な欲有り。其の欲も亦た是れ天理人情なり。天下萬世公共の心は、每に萬物に多少の其の欲を得ざる處有るを憐れむ。餘り有る者は欲する所の外に盈溢して死し、足らざる者は欲する所の內に奔走して死す。二者均しくば、俱に生の道なり。常に思ふ、天地許多の人物を生じ、自ら以て之を養ふに足る。然れども其の欲を得ざる者は、正に不均の故に緣るのみ。此れ天地の是ならざる處無し。宇宙の內に自ら其の責に任ずる者有り。是を以て聖王の天下を治むるは、均と說かずんば就ち平と說く。其の均平の術は只だ是れ絜矩、絜矩の方は、只だ是れ個の好惡を同じくするなり。
現代語訳
世の万物にはみな欲があります。その欲もまた天の理であり人の情です。天下万世に共通する心は、いつも万物に欲を得られないところがあるのを憐れみます。余りある者は欲するものの外に溢れて死に、足りない者は欲するものの内で走り回って死にます。二つが均しければ、どちらも生きる道です。いつも思います。天地は多くの人と物を生み、それを養うに足ります。それでも欲を得られないのは、まさに均しくないからです。これは天地に誤りがあるのではありません。宇宙の内に、その責めを負う者がいるのです。だから聖王が天下を治めるのに、均と言うか平と言います。その均し平らかにする術はただ絜矩であり、絜矩のやり方はただ好き嫌いを同じくすることです。
解説
この章句が説くこと
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『呻吟語』内篇・存心・當然の願ひを足して過分の欲を裁す人情に當然の願ひ有り、過分の欲有り。聖王なる者は、其の當然の願ひを足して其の過分の欲を裁す、以て相苦しむるに非ざるなり。天地の間の欲願は只だ此の數有るのみ。此に餘り有りて彼に足らざれば、聖王調劑して之を均釐し、其の過分なる者を裁して以て其の當然なる者を益す。夫れ是れを至平と謂ふ。而して人に淫情無く、觖望無し。
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『呻吟語』外篇・治道・萬物は不齊に生じて齊に死す齊しからざるは、天の道なり、數の自然なり。故に萬物は不齊に生じて、齊に死す。而るに世の情に任せ事を厭ふ者は、乃ち一切之を齊しくせんと欲す。是れ益ます以て其の齊しからざる者を甚だしくするなり。夫れ其の齊しからざるを齊しからずとせば、則ち簡にして治め易し。其の齊しからざるを齊しくせば、則ち亂れて端多し。
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『呻吟語』外篇・治道・平らかなれば則ち安し天下の聖人に望む所は、只だ是れ個の安の字なり。聖人の天下を安んずる所以は、只だ是れ個の平の字なり。平らかなれば則ち安く、平らかならざれば則ち安からず。
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『呻吟語』外篇・治道・各おの其の分に安んじ、各おの其の願ひを得聖人上に在れば、能く天下萬物をして各おの其の當然の所に止まり、而して陵奪假借の患ひ無からしむ。夫れ是れを各おの其の分に安んずと謂ひて、天地位す。能く天地萬物をして各おの其の同然の情を遂げ、而して抑鬱倔強の態無からしむ。夫れ是れを各おの其の願ひを得と謂ひて、萬物育す。
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『呻吟語』外篇・治道・常の字天地の萬物を信ずる所以、聖人の天下を安んずる所以は、只だ是れ一個の常の字なり。常なる者は、帝王の民志を定むる所以の者なり。常一たび定まれば、則ち樂しむ者は樂を以て常と為して、德を知らず。苦しむ者は苦を以て常と為して、怨みを知らず。若し當然と謂はば、趨避有りて恩仇無し。大奸臣凶に非ずんば、敢へて輒ち厭足の望み、忿恨の心を生ぜず。何となれば則ち、常に狃るる故なり。
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『呻吟語』外篇・治道・各おの其の位に安んず平の一字は極めて意味有り。所以に至治の世は只だ個の天下平と說く。或るひと言ふ、「水に高下無し、一たび流注を經れば平を得ざる無し」と。曰く、「此れは是れ一味に平らかにし了へたり。世間の千種の人、萬般の物、百樣の事は、各おの分量有り、各おの差等有り。只だ各おの其の位に安んじて一毫も拂淚不安の意無し。這れ便ち是れ太平なり。君の說の如くんば則ち是れ尊卑貴賤小大を等しくして之を齊しくするなり。不平は是れより大なるは莫し」と。