呻吟語 / 外篇・治道・盜を弭むるの本務
弭盜之末務,莫如保甲;弭之本務,莫如教養。故鬥米十錢,夜戶不閉,足食之效也。守遺待主,始於盜牛,教化之功也。夫盜,辱名也。死,重法也。而人猶為之,此其罪豈獨在民哉?而惟城池是恃,關鍵是嚴,巡緝是密,可笑也已。
新字:弭盗之末務,莫如保甲;弭之本務,莫如教養。故鬥米十銭,夜戸不閉,足食之効也。守遺待主,始於盗牛,教化之功也。夫盗,辱名也。死,重法也。而人猶為之,此其罪豈独在民哉?而惟城池是恃,関鍵是厳,巡緝是密,可笑也已。
書き下し
盜を弭むるの末務は、保甲に如くは莫し。之を弭むるの本務は、教養に如くは莫し。故に鬥米十錢、夜戶閉ざさざるは、食を足すの效なり。遺を守りて主を待つは、牛を盜むに始まるは、教化の功なり。夫れ盜は、辱名なり。死は、重法なり。而るに人猶ほ之を為すは、此れ其の罪豈に獨り民に在らんや。而るに惟だ城池是れ恃み、關鍵是れ嚴にし、巡緝是れ密にするは、笑ふ可きのみ。
現代語訳
盗みを止める末の務めは、保甲に及ぶものがありません。止める本の務めは、教え養うことに及ぶものがありません。だから一斗の米が十銭で夜も戸を閉めないのは、食を足りさせた効果です。落とし物を守って持ち主を待つ者が、もとは牛を盗んだ者だというのは、教化の功です。盗みは恥ずべき名です。死は重い法です。それでも人がなおそれをするのは、その罪がどうして民だけにあるでしょうか。それなのに城壁と堀だけを頼り、閂を厳しくし、巡回を密にするのは、笑うべきことです。
解説
盗みへの対策を、末と本に分けます。末は保甲などの監視、本は教え養うことです。そして二つの故事が挙げられます。米が安く夜も戸を閉めなかったのは食が足りたから、落とし物を守る人がもと牛泥棒だったのは教化の力。どちらも取り締まりの結果ではありません。恥ずべき名と重い法があってなお盗む以上、罪は民だけにない。監視を厚くするだけの対策が、笑うべきものとされます。
この章句が説くこと
盗保甲教養末本取り締まり
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