呻吟語 / 外篇・治道・君門萬里の歎
人君者,天下之所依以欣戚者也。一念怠荒,則四海必有廢弛之事,一念縱逸,則四海必有不得其所之民。故常一日之間,幾運心思於四海,而天下尚有君門萬里之歎。苟不察群情之向背,而惟己欲之是恣,嗚呼!可懼也。
新字:人君者,天下之所依以欣戚者也。一念怠荒,則四海必有廃弛之事,一念縦逸,則四海必有不得其所之民。故常一日之間,幾運心思於四海,而天下尚有君門万里之嘆。苟不察群情之向背,而惟己欲之是恣,嗚呼!可懼也。
書き下し
人君なる者は、天下の依りて以て欣戚する所の者なり。一念怠荒なれば、則ち四海必ず廢弛の事有り。一念縱逸なれば、則ち四海必ず其の所を得ざるの民有り。故に常に一日の間、幾たびか心思を四海に運らすも、天下尚ほ君門萬里の歎有り。苟しくも群情の向背を察せずして、惟だ己の欲する所を是れ恣にせば、嗚呼、懼る可きなり。
現代語訳
君主とは、天下が頼って喜び悲しむもとです。一つの思いが怠り荒めば、四海に必ず廃れ緩んだ事が生じます。一つの思いが放縦になれば、四海に必ず居場所を得ない民が生じます。だからいつも一日のあいだに幾度も心を四海に巡らせても、天下にはなお君主の門は万里の彼方だという嘆きがあります。もし人々の心の向き背きを察せず、ただ自分の欲を恣にするなら、ああ、恐るべきことです。
解説
一つの思いが四海に及ぶという因果を示します。怠れば廃れた事が、放縦になれば居場所を失う民が、必ず生じる。心の動きが直接に結果になるという厳しさです。そして幾度も心を巡らせてもなお、君門は万里の彼方だと嘆かれる。最大限努めても届かないという前提があって初めて、欲を恣にすることの恐ろしさが立ちます。心の緩みが、そのまま天下の緩みになる構図です。
この章句が説くこと
一念四海怠荒君門万里恐れ
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