呻吟語 / 外篇・治道・溢を慎むの道
故聖王在上,慎所以溢之者,不生民情。禮義以馴之,法制以防之,不使潛滋暴決,此慎溢之道也。二者帝王調劑民情之大機也,天下治亂恒必由之。
新字:故聖王在上,慎所以溢之者,不生民情。礼義以馴之,法制以防之,不使潜滋暴決,此慎溢之道也。二者帝王調剤民情之大機也,天下治乱恒必由之。
書き下し
故に聖王上に在れば、溢るる所以の者を慎み、民情を生ぜしめず。禮義もて以て之を馴らし、法制もて以て之を防ぎ、潛かに滋り暴かに決せしめず。此れ溢を慎むの道なり。二者は帝王の民情を調劑するの大機なり。天下の治亂は恒に必ず之に由る。
現代語訳
だから聖王が上にあれば、溢れる原因を慎み、民の情を生じさせません。礼義で馴らし、法制で防ぎ、ひそかに増えたり急に切れたりさせません。これが溢れを慎むやり方です。この二つは、帝王が民の情を調える大きな仕掛けです。天下が治まるか乱れるかは、常に必ずこれによります。
解説
前の段の裁つ話と組にして、慎む話を置きます。溢れてから削るのは痛いので、溢れる原因のほうを慎む。礼義で馴らし法制で防ぐという二段構えです。そして、ひそかに増えるのと急に切れるのを両方防ぐとされます。じわじわと急、どちらも警戒の対象です。最後に二つが調節の大きな仕掛けだとまとめられ、治乱がここに懸かると言い切られています。
この章句が説くこと
慎溢予防礼義法制調節
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『呻吟語』外篇・治道・便ならざらしむ可からず民情は便ならざらしむ可からず、甚だしく便ならしむ可からず。便ならざれば則ち壅閼して通ぜず。甚だしき者は之を令するも行はれず、必ず潰決して收拾す可からず。甚だ便なれば則ち縱肆して檢せず。甚だしき者は法制する能はず、必ず放溢して敢へて約束せず。故に聖人は其の好惡を同じくし、以て其の必至の情を休め、之を禮法に納れ、以て其の長ず可からざるの漸を防ぐ。故に能く相ひ安んじ相ひ習ひて、亂を為すに至らず。
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『呻吟語』外篇・治道・民情を正に引く夫れ水を治むる者は、之を通ずるは乃ち之を窮むる所以にして、之を塞ぐは乃ち之を決する所以なり。民情も亦た然り。故に先王は民情を正に引き、法に裁せず。法と情と俱には行はれず、一つ存すれば則ち一つ亡ぶ。三代の天下を得るは、民情を得るなり。其の天下を守るや、民情を調ふるなり。之に順ひて拂らざらしめ、之を節して過ぎざらしむ、是れを之れ調ふと謂ふ。
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『呻吟語』外篇・治道・微なる者は之を正し、甚だしき者は之に從ふ微なる者は之を正し、甚だしき者は之に從ふ。微に從へば則ち甚だしく、甚だしきを正せば愈いよ甚だし。天地萬物・氣化人事、皆な然らざるは莫し。是の故に微を正し甚だしきに從ふは、皆な之を禁ずる所以なり。此れ二帝三王の治むる所以なり。
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『呻吟語』外篇・治道・人情の竇を開かず君子の風俗に於けるや、先王の禮を守りて儉約是れ崇び、妄りに事端を開きて以て長ず可きの漸を貽さず。是の故に漆器は金玉に至らざるも、之を刻鏤して止まず。黼黻は庶人に至らざるも、錦繡もて牆屋を被ひて止まず。民貧しく盜起こるも顧みざるなり。嚴刑峻法も禁ずる莫きなり。是の故に君子は其の事端を謹み、人情の竇を開きて小人無厭の欲を恣にせず。
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『呻吟語』外篇・治道・溢を裁するの道民情既に溢るれば、之を裁すること難しと為す。溢を裁するは駢拇贅疣を割くが如く、人甚だ堪へず。故に之を裁するや民をして堪へしめんと欲せば、漸有るのみ。安靜にして震激せざる、此れ溢を裁するの道なり。
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『呻吟語』外篇・治道・聖人の民を治むるは水を治むるが如し民情に五有り、皆な便に生ず。利を見れば則ち趨き、色を見れば則ち愛し、飲食を見れば則ち貪り、安逸を見れば則ち就き、愚弱を見れば則ち欺く。皆な己に便なるが故なり。惟だ便なれば、則ち術は工を期せずして自ら工なり。惟だ便なれば、則ち奸は多きを期せずして自ら多し。君子固より其の禁じ難きを知る。而して德もて之を柔らげ、教もて之を諭し、禮もて之を禁じ、法もて之を懲らす。終日便と敵を為すも、竟に衰へ止むる能はず。其の便とする所を禁ずるは、其の便とせざる所を強ふると、其の難きこと一なり。故に聖人の民を治むるは水を治むるが如し。下に就かざらしむる能はず、分かちて泛溢せざらしむるを能くするのみ。之を堤して決せざらしむるは、堯・舜と雖も能はず。