呻吟語 / 外篇・治道・驟なる者は世を驚かし、漸なる者は聖人獨り懼る
周、鄭交質,若出於驟然,天子雖孱懦甚,亦必有恚心,諸侯雖豪橫極,豈敢生此念?迨積漸所成,其流不覺,至是故步視千里為遠,前步視後步為近。千里者,步步之積也。是以驟者舉世所驚,漸者聖人獨懼。明以燭之,堅以守之,毫髮不以假借,此慎漸之道也。
新字:周、鄭交質,若出於驟然,天子雖孱懦甚,亦必有恚心,諸侯雖豪横極,豈敢生此念?迨積漸所成,其流不覚,至是故歩視千里為遠,前歩視後歩為近。千里者,歩歩之積也。是以驟者舉世所驚,漸者聖人独懼。明以燭之,堅以守之,毫髪不以仮借,此慎漸之道也。
書き下し
周・鄭交質するは、若し驟然より出づれば、天子孱懦甚だしと雖も、亦た必ず恚心有らん。諸侯豪橫極まると雖も、豈に敢へて此の念を生ぜんや。積漸の成す所に迨びて、其の流れ覺えず。是に至るは故に步は千里を視て遠しと為し、前步は後步を視て近しと為すなり。千里とは、步步の積なり。是を以て驟なる者は世を舉げて驚き、漸なる者は聖人獨り懼る。明もて之を燭らし、堅もて之を守り、毫髮も以て假借せず。此れ漸を慎むの道なり。
現代語訳
周と鄭が人質を交換したことも、もし急に起こったなら、天子がいかに弱く気が小さくても必ず怒りを抱いたでしょう。諸侯がいかに横暴を極めていても、こんな考えを起こせたでしょうか。積み重なった進みが成したことなので、その流れに気づきません。ここに至るのは、一歩からは千里が遠く見え、前の一歩からは次の一歩が近く見えるからです。千里とは一歩一歩の積み重ねです。だから急なことは世を挙げて驚き、じわじわ進むことは聖人だけが畏れます。明るさで照らし、堅さで守り、毛ほども譲らない。これがじわじわを慎む道です。
解説
周王と鄭伯が人質を交換した史実を引きます。天子と諸侯が対等に人質を出すという逆転が、急に起これば誰もが怒る。しかし積み重ねの果てなので誰も気づきません。そして距離の比喩が置かれます。一歩から千里は遠いが、前の一歩から次の一歩は近い。ここが要点で、一歩ごとの判断では止められないということです。だから急なことは皆が驚き、じわじわは聖人だけが畏れる。対処は毛ほども譲らないことだとされます。
この章句が説くこと
周鄭交質一歩積み重ね譲らない
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