呻吟語 / 外篇・品藻・夫れ是れを之れ獨復と謂ふ
世之頹波,明知其當變,狃於眾皆為之而不敢動;事之義舉,明知其當為,狃於眾皆不為而不敢動,是亦眾人而已。提抱之兒得一果餅,未敢輒食,母嘗之而後入口,彼不知其可食與否也。既知之矣,猶以眾人為行止,可愧也夫惟英雄豪傑不徇習以居非,能違俗而任道,夫是之謂獨復。嗚呼!此庸人智巧之士,所謂生事而好異者也。
新字:世之頹波,明知其当変,狃於眾皆為之而不敢動;事之義舉,明知其当為,狃於眾皆不為而不敢動,是亦眾人而已。提抱之児得一果餅,未敢輒食,母嘗之而後入口,彼不知其可食与否也。既知之矣,猶以眾人為行止,可愧也夫惟英雄豪傑不徇習以居非,能違俗而任道,夫是之謂独復。嗚呼!此庸人智巧之士,所謂生事而好異者也。
書き下し
世の頹波は、明らかに其の當に變ずべきを知るも、眾皆な之を為すに狃れて敢へて動かず。事の義舉は、明らかに其の當に為すべきを知るも、眾皆な為さざるに狃れて敢へて動かず。是れ亦た眾人なるのみ。提抱の兒は一の果餅を得るも、未だ敢へて輒ち食らはず。母之を嘗めて而る後に口に入る。彼は其の食らふ可きと否とを知らざるなり。既に之を知れり。猶ほ眾人を以て行止と為さば、愧づ可きかな。惟だ英雄豪傑のみ習に徇ひて非に居らず、能く俗に違ひて道に任ず。夫れ是れを之れ獨復と謂ふ。
現代語訳
世の崩れた流れは、変えるべきだとはっきり分かっていても、大勢がそうしているのに馴れて動こうとしません。義にかなった行いは、なすべきだとはっきり分かっていても、大勢がしないのに馴れて動こうとしません。これもまた大勢の人にすぎません。抱かれた子は菓子をもらってもすぐには食べず、母が味見してから口に入れます。食べられるかどうか分からないからです。しかし分かっているのに、なお大勢を基準に進退を決めるなら、恥ずべきことです。ただ英雄豪傑だけが、習わしに従って非に居らず、俗に逆らって道に赴きます。これを独りで復ると言います。
解説
分かっているのに動かない状態を、大勢に馴れているからだと診断します。そして赤ん坊の比喩が効いています。子が母の味見を待つのは分からないからで、分かっているのに待つなら恥だ、と。判断できる者が多数決に従うことの滑稽さを突き、独復という易の語で締めた一段です。判断できる者が多数決に従うことの、滑稽さを突いています。
この章句が説くこと
多数習慣独復判断恥
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