呻吟語 / 外篇・世運・古昔盛時の民
古昔盛時,民自飽暖之外無過求,自利用之外無異好,安身家之便而不恣耳目之欲。家無奇貨,人無玩物,餘珠玉於山澤而不知寶,贏繭絲於箱篋而不知繡。偶行於途而知貴賤之等,創見於席而知隆殺之理。農於桑麻之外無異聞,士於禮義之外無羨談;公卿大夫於勸深訓迪之外無簿書。知官之貴,而不知為民之難;知貧之可憂,而不知人富之可嫉。夜行不以兵,遠行不以餱。施人者非欲其我德,施於人者不疑其欲我之德。訴訢渾渾,其時之春乎?其物之胚孽乎?吁!可想也已。
新字:古昔盛時,民自飽暖之外無過求,自利用之外無異好,安身家之便而不恣耳目之欲。家無奇貨,人無玩物,余珠玉於山沢而不知宝,贏繭糸於箱篋而不知繍。偶行於途而知貴賤之等,創見於席而知隆殺之理。農於桑麻之外無異聞,士於礼義之外無羨談;公卿大夫於勧深訓迪之外無簿書。知官之貴,而不知為民之難;知貧之可憂,而不知人富之可嫉。夜行不以兵,遠行不以餱。施人者非欲其我徳,施於人者不疑其欲我之徳。訴訢渾渾,其時之春乎?其物之胚孽乎?吁!可想也已。
書き下し
古昔盛時、民は飽暖の外に過求無く、利用の外に異好無く、身家の便に安んじて耳目の欲を恣にせず。家に奇貨無く、人に玩物無し。珠玉を山澤に餘して寶を知らず、繭絲を箱篋に贏して繡を知らず。農は桑麻の外に異聞無く、士は禮義の外に羨談無し。官の貴きを知りて、民為るの難きを知らず。貧の憂ふ可きを知りて、人の富の嫉む可きを知らず。夜行くに兵を以てせず、遠く行くに餱を以てせず。人に施す者は我に德とするを欲するに非ず、人に施さるる者は其の我の德とするを欲するを疑はず。訴訢渾渾たり。其れ時の春か。其れ物の胚孽か。吁、想ふ可きのみ。
現代語訳
昔の盛んな時代、民は飽き暖まる以上を求めず、使えるもの以上の好みを持たず、身と家の都合に安んじて耳目の欲をほしいままにしませんでした。家に珍しい品は無く、人に玩び物はありません。珠玉が山や沢に余っていても宝と知らず、繭の糸が箱に余っていても刺繍を知りませんでした。農は桑と麻の外に耳にすることが無く、士は礼義の外に羨む話がありません。官が貴いことは知っても、民であることの難しさを知りません。貧しさが憂うべきものとは知っても、人の富が妬ましいとは知りません。夜道に武器を持たず、遠出に食料を持ちませんでした。人に施す者は恩に着てほしいと思わず、施される者も恩に着せられるとは疑いません。おおらかで素朴でした。それは時の春でしょうか、物の芽生えでしょうか。ああ、想うばかりです。
解説

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