呻吟語 / 内篇・養生・遠美軒に冷淡を扁す
天地間之禍人者,莫如多;令人易多者,莫如美。美味令人多食,美色令人多欲,美聲令人多聽,美物令人多貪,美官令人多求,美室令人多居,美田令人多置,美寢令人多逸,美言令人多入,美事令人多戀,美景令人多留,美趣令人多思,皆禍媒也。不美則不令人多。不多則不令人敗。予有一室,題之曰「遠美軒」,而扁其中曰「冷淡」。非不愛美,懼禍之及也。
新字:天地間之禍人者,莫如多;令人易多者,莫如美。美味令人多食,美色令人多欲,美声令人多聴,美物令人多貪,美官令人多求,美室令人多居,美田令人多置,美寝令人多逸,美言令人多入,美事令人多恋,美景令人多留,美趣令人多思,皆禍媒也。不美則不令人多。不多則不令人敗。予有一室,題之曰「遠美軒」,而扁其中曰「冷淡」。非不愛美,懼禍之及也。
書き下し
天地間の人を禍する者は、多きに如くは莫し。人をして多きに易からしむる者は、美に如くは莫し。美味は人をして多く食らはしめ、美色は人をして多く欲せしめ、美官は人をして多く求めしめ、美田は人をして多く置かしめ、美言は人をして多く入れしめ、美景は人をして多く留まらしむ。皆な禍の媒なり。美ならざれば則ち人をして多からしめず。多からざれば則ち人をして敗れしめず。予に一室有り、之に題して「遠美軒」と曰ひ、其の中に扁して「冷淡」と曰ふ。美を愛せざるに非ず、禍の及ぶを懼るればなり。
現代語訳
天地のあいだで人に禍をもたらすもので、多さに及ぶものはありません。人を多くさせるもので、美しさに及ぶものはありません。美味は人に多く食べさせ、美色は人に多く欲させ、美しい官職は人に多く求めさせ、美しい田は人に多く買わせ、美しい言葉は人に多く聞き入れさせ、美しい景色は人に多く留まらせます。どれも禍の仲立ちです。美しくなければ人を多くさせません。多くならなければ人を敗れさせません。私には一室があり、そこに遠美軒と名づけ、中に冷淡と扁額を掲げました。美を愛さないのではなく、禍が及ぶのを恐れるからです。
解説
禍の原因を多さに、多さの原因を美しさに遡ります。そして美しいものが人を多くさせる例を十以上並べます。味、色、官職、田、言葉、景色。どれも誘惑として名高いものばかりです。そして自分の部屋に遠美軒と名づけ、中に冷淡と掲げたと記します。美を憎むのではなく恐れるという断りが、この人らしいところです。美を憎むのではなく恐れるという断りが、この人らしい。
この章句が説くこと
美多禍遠美軒冷淡
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