呻吟語 / 内篇・談道・五者の知覺は道の賊
心之好惡不可迷也,耳目口鼻四肢之好惡不可徇也。瞽者不辨蒼素,聾者不辨宮商,鼽者不辨香臭,狂者不辨辛酸,逃難而追亡者不辨險夷遠近。然於我無損也,於道無損也,於事無損也,而有益於世、有益於我者無窮。乃知五者之知覺,道之賊而心之殃也,天下之禍也。
新字:心之好悪不可迷也,耳目口鼻四肢之好悪不可徇也。瞽者不弁蒼素,聾者不弁宮商,鼽者不弁香臭,狂者不弁辛酸,逃難而追亡者不弁険夷遠近。然於我無損也,於道無損也,於事無損也,而有益於世、有益於我者無窮。乃知五者之知覚,道之賊而心之殃也,天下之禍也。
書き下し
心の好惡は迷ふ可からず、耳目口鼻四肢の好惡は徇ふ可からず。瞽者は蒼素を辨ぜず、聾者は宮商を辨ぜず、鼽者は香臭を辨ぜず、狂者は辛酸を辨ぜず、難を逃れて亡を追ふ者は險夷遠近を辨ぜず。然れども我に損無きなり、道に損無きなり、事に損無きなり。而して世に益有り我に益有る者窮まり無し。乃ち知る、五者の知覺は、道の賊にして心の殃なり、天下の禍なりと。
現代語訳
心の好き嫌いに迷ってはならず、耳目口鼻や手足の好き嫌いに従ってはなりません。盲の人は青と白を見分けず、聾の人は音の高低を分けず、鼻の利かない人は香りと臭いを分けず、気の高ぶった人は辛いと酸いを分けず、難を逃れて逃亡者を追う者は険しいか平らか、遠いか近いかを分けません。しかしそれで自分に損はなく、道に損はなく、事に損はありません。それどころか世に益があり自分に益があることは限りありません。だから分かるのです。五つの感覚の分別は道の賊であり心の災いであり、天下の禍だと。
解説
感覚が鋭いことを害と呼ぶ、思い切った一段です。見分けられないままでも損はなく、かえって益があると言います。逃亡者を追う者が道の険しさを気にしないという例が効いていて、一事に集中している人には感覚の選り好みが消えるのです。快不快の判別が細かいほど、人は動けなくなる。感覚を鈍らせよという話ではなく、感覚の判定に従うなという話として読むのが正確でしょう。
この章句が説くこと
感覚好悪集中判別執着
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