呻吟語 / 内篇・應務・大頭腦處に一個の是の字を成す
斷之一事,原謂義所當行,郤念有牽纏,事有掣礙,不得脫然爽潔,才痛煞煞下一個斷字,如刀斬斧齊一般。總然只在大頭腦處成一個是字,第二義又都放下,況兒女情、利害念,那顧得他?若待你百可意、千趁心,一些好事做不成。
新字:断之一事,原謂義所当行,郤念有牽纏,事有掣礙,不得脫然爽潔,才痛煞煞下一個断字,如刀斬斧斉一般。総然只在大頭脳処成一個是字,第二義又都放下,況児女情、利害念,那顧得他?若待你百可意、千趁心,一些好事做不成。
書き下し
斷の一事は、原と義の當に行ふべき所を謂ふも、郤って念に牽纏有り、事に掣礙有りて、脫然爽潔なるを得ず。才かに痛煞煞として一個の斷の字を下す。刀斬斧齊の如きに一般なり。總然として只だ大頭腦處に在りて一個の是の字を成し、第二義は又た都て放下す。況んや兒女の情、利害の念は、那ぞ他を顧み得ん。若し你が百可意、千趁心を待たば、一些の好事も做し成らず。
現代語訳
断ずるという一事は、もともと義としてなすべきところを指しますが、思いには絡みつきがあり、事には引っかかりがあって、さっぱり潔くいきません。そこで痛みをこらえて断という一字を下す。刀で斬り斧で揃えるのと同じです。要するに、ただ大きな肝心のところで正しいという一字を立て、二番目以下の義はすべて下ろすのです。まして情や損得の思いなど、構っていられるでしょうか。もし百のことが意に適い千のことが心に沿うのを待っていたら、良い事は一つも成りません。
解説
断ずることの実際を描きます。義として正しいと分かっていても、思いは絡み事は引っかかる。だから痛みをこらえて一字を下ろすのです。そして手順が示されます。肝心の一点で正しいを立て、二番目以下は全部下ろす。すべてが納得できるのを待てば何も成らないという結びで、決断の中身が具体的に示された一段です。決断の中身が、具体的に示された一段になっています。
この章句が説くこと
決断優先痛み絡み実行
関連する章句
-
『後世への最大遺物』第二回・人に頼らず天と己にたよるその考えを持ったばかりでなく、その考えを実行した。その話は長うございますけれども、ついには何万石という村々を改良して、自分の身をことごとく人のために使った。旧幕の末路にあたって、経済上、農業改良上について非常の功労のあった人であります。それでわれわれもそういう人の生涯、二宮金次郎先生のような人の生涯を見ますときに、「もしあの人にもああいうことができたならば、私にもできないことはない」という考えを起します。普通の考えではありますけれども、非常に価値のある考えであります。それで人に頼らずとも、われわれが神にたより己にたよって宇宙の法則に従えば、この世界はわれわれの望むとおりになり、この世界にわが考えを行うことができるという感覚が起ってくる。
-
『後世への最大遺物』第二回・己の信ずることを実行する者己の信ずることを実行するものが真面目なる信者です。ただただ壮言大語することは誰にもできます。いくら神学を研究しても、いくら哲学書を読みても、われわれの信じた主義を真面目に実行するところの精神がありませぬあいだは、神はわれわれにとって異邦人であります。それゆえに、われわれは神がわれわれに知らしたことをそのまま実行いたさなければなりません。こういたさねばならぬと思うたことは、われわれはことごとく実行しなければならない。もしわれわれが、正義はついに勝つものにして不義はついに負けるものであるということを世間に発表するものであるならば、そのとおりにわれわれは実行しなければならない。これを称して真面目なる信徒と申すのです。
-
論語・子罕篇子曰く、之に語げて惰らざる者は、其れ回なるか。
-
『正法眼蔵随聞記』巻三作すことの難きにはあらず、能くすることの難きなり、出離得道の行は人ごとに心にかけたるには似たれとも、能くする人まれなればなり、生死事大なり、無常迅速なり、心を緩くすることなかれ、世を捨ては実とに世を捨つべきなり、仮名はいかにてもありなんとおぼゆるなり、
-
論語・公冶長篇子路聞くこと有りて、未だ之を行うこと能わざれば、唯だ聞くこと有らんことを恐る。
-
『呻吟語』内篇・修身・義を見て為さず、之を眾に違ふに托す義を見て為さず、又た之を眾に違ふに托す。此れ力行する者の大戒なり。若し肯へて務實し、又た自ら名を逃れば、術無きを患へず。吾竊かに以て自ら恨む。