呻吟語 / 内篇・應務・天下の事は只だ認真に做す
嘗見一論人者云:「渠只把天下事認真做,安得不敗?」余聞之甚驚訝,竊意天下事盡認真做去,還做得不象,若只在假借面目上做工夫,成甚道理?天下事只認真做了。更有甚說?何事不成?方今大病痛,正患在不肯認真做,所以大綱常、正道理無人扶持,大可傷心。嗟夫!武子之愚,所謂認真也與?
新字:嘗見一論人者云:「渠只把天下事認真做,安得不敗?」余聞之甚驚訝,竊意天下事尽認真做去,還做得不象,若只在仮借面目上做工夫,成甚道理?天下事只認真做了。更有甚説?何事不成?方今大病痛,正患在不肯認真做,所以大綱常、正道理無人扶持,大可傷心。嗟夫!武子之愚,所謂認真也与?
書き下し
嘗て一の人を論ずる者を見るに云ふ、「渠只だ天下の事を把りて認真に做す。安くんぞ敗れざるを得んや」と。余之を聞きて甚だ驚訝す。竊かに意へらく、天下の事盡く認真に做し去るも、還た做し得て象ならず。若し只だ假借の面目上に在りて工夫を做さば、甚の道理をか成さん。天下の事只だ認真に做し了はらば、更に甚の說か有らん。何事か成らざらん。方今の大病痛は、正に不肯認真做に患ふ。所以に大綱常、正道理扶持する人無し。大いに心を傷ましむ可し。
現代語訳
かつて人を論ずる者がこう言うのを聞きました。あの人はただ天下の事を本気でやる。どうして失敗せずにいられようか、と。私はそれを聞いてひどく驚きました。ひそかに思うに、天下の事をすべて本気でやり通しても、なお形にならないことがあります。もし取り繕った表向きのところで工夫をするなら、どんな道理が成るでしょうか。天下の事を本気でやり通せば、ほかに何を言うことがあるでしょうか。何事が成らないでしょうか。今の大きな病は、まさに本気でやろうとしないところにあります。だから大きな綱常も正しい道理も、支える人がいません。実に心を痛めることです。
解説
本気でやるから失敗する、という批評に驚くところから始まります。本気でやっても形にならないことがあるのに、取り繕いで何が成るのか、と。そして時代の病を、本気でやらないことに帰します。本気が笑われる空気そのものが病だという診断で、末尾には孔子が寧武子の愚を評した言葉が引かれています。本気が笑われる空気そのものが病だ、という診断です。
この章句が説くこと
本気認真取り繕い時代病
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