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呻吟語 / 内篇・應務・事の心を累はすに非ず、乃ち心の心を累はすなり

某應酬時有一大病痛,每於事前疏忽,事後點檢,點檢後輒悔吝;閒時慵獺,忙時迫急,迫急後輒差錯。或曰:「此失先後著耳。」肯把點檢心放在事前,省得點檢,又省得悔吝。肯把急迫心放在閒時,省得差錯,又省得牽掛。大率我輩不是事累心,乃是心累心。一謹之不能,而謹無益之謹;一勤之不能,而勤無及之勤,於此心倍苦,而於事反不詳焉,昏懦甚矣!書此以自讓。

新字:某応酬時有一大病痛,毎於事前疏忽,事後点検,点検後輒悔吝;閒時慵獺,忙時迫急,迫急後輒差錯。或曰:「此失先後著耳。」肯把点検心放在事前,省得点検,又省得悔吝。肯把急迫心放在閒時,省得差錯,又省得牽掛。大率我輩不是事累心,乃是心累心。一謹之不能,而謹無益之謹;一勤之不能,而勤無及之勤,於此心倍苦,而於事反不詳焉,昏懦甚矣!書此以自譲。

書き下し

某應酬する時に一の大病痛有り。每に事前に疏忽し、事後に點檢す。點檢の後輒ち悔吝す。閒時に慵獺し、忙時に迫急す。迫急の後輒ち差錯す。或るひと曰く、「此れ先後の著を失するのみ」と。肯へて點檢の心を事前に放かば、點檢を省き得、又た悔吝を省き得ん。肯へて急迫の心を閒時に放かば、差錯を省き得、又た牽掛を省き得ん。大率我輩は是れ事の心を累はすに非ず、乃ち是れ心の心を累はすなり。

現代語訳

私は人と応対するときに大きな病があります。いつも事の前には疎かにし、事の後で点検します。点検した後は悔やみます。暇な時には怠け、忙しい時には慌てます。慌てた後は間違えます。ある人が言いました。それは前後の手順を取り違えているだけです、と。もし点検する心を事の前に置けば、後の点検も悔いも省けます。もし急ぐ心を暇な時に置けば、間違いも気がかりも省けます。おおよそ私たちは、事が心を疲れさせているのではなく、心が心を疲れさせているのです。

解説

自分の癖を正直に並べ、友人の一言で診断が下ります。前後の手順が入れ替わっているだけ、と。点検を後ではなく前に、急ぎを忙しい時ではなく暇な時に。置き場所を移すだけで手間が半分になります。そして結びの一句が鋭く、疲れの原因は事ではなく心だと言い当てます。自省の記録として書かれた一段です。自省の記録として書かれた、率直な一段です。

この章句が説くこと

順序点検後悔自省疲れ

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