呻吟語 / 内篇・應務・不覺にして我に同歸す
到一處問一處風俗,果不大害,相與循之,無與相忤。果於義有妨,或不言而默默轉移,或婉言而徐徐感動,彼將不覺而同歸於我矣。若疾言厲色,是己非人,是激也,自家取禍不惜,可惜好事做不成。
新字:到一処問一処風俗,果不大害,相与循之,無与相忤。果於義有妨,或不言而黙黙転移,或婉言而徐徐感動,彼将不覚而同帰於我矣。若疾言厲色,是己非人,是激也,自家取禍不惜,可惜好事做不成。
書き下し
一處に到れば一處の風俗を問ふ。果たして大害ならざれば、相與に之に循ひ、與に相忤ふこと無かれ。果たして義に妨ぐる有らば、或いは言はずして默默として轉移し、或いは婉言して徐徐として感動せしめば、彼將に覺えずして我に同歸せんとす。若し疾言厲色し、己を是とし人を非とせば、是れ激するなり。自家禍を取るは惜しまざるも、好事を做し成さざるを惜しむ可し。
現代語訳
新しい土地に着けば、その土地の風俗を尋ねます。大きな害が無ければ、共にそれに従い、逆らわないことです。もし義に差し支えがあるなら、言わずに黙って移していくか、穏やかな言葉で少しずつ心を動かせば、相手は気づかないうちにこちらと同じ方へ来ます。もし激しい言葉と厳しい顔つきで、自分を正しいとし人を間違いとすれば、それは相手を激することです。自分が禍を招くのは惜しくありませんが、良い事が成らないのが惜しい。
解説
赴任先での改革の手順を示します。まず風俗を尋ね、害が無ければ従う。差し支えがあれば黙って移すか、穏やかに動かす。激しく正せば相手を激するだけです。そして最後の一句が印象的で、自分が禍を受けるのは構わないが、良い事が成らないのが惜しいと言う。目的を自分の正しさではなく成果に置いた一段です。目的を、自分の正しさではなく成果に置いた一段です。
この章句が説くこと
赴任風俗改革穏やか成果
関連する章句
-
『韓非子』問田第四十二亂主闇上の患禍を憚らずして、必ず以て民萌の資利を齊えんと思うは、仁智の行なり。...亂主闇上の患禍を憚りて、死亡の害を避け、...は、貪鄙の為なり。
-
史記 孫子呉起列伝楚の悼王、素より起の賢なるを聞き、至れば則ち楚に相とす。法を明らかにし令を審らかにし、不急の官を捐て、公族の疏遠なる者を廃し、以て戦闘の士を撫養す。要は兵を彊くし、馳説の従横を言ふ者を破るに在り。是に於いて南は百越を平らげ、北は陳・蔡を并せ、三晋を卻け、西は秦を伐つ。諸侯、楚の彊きを患ふ。故に楚の貴戚尽く呉起を害せんと欲す。悼王死するに及び、宗室大臣、乱を作して呉起を攻む。呉起、走りて王の尸に之きて之に伏す。起を撃つの徒、因りて呉起を射刺し、并せて悼王に中つ。悼王既に葬られ、太子立ち、乃ち令尹をして尽く呉起を射て并せて王の尸に中つる者を誅せしむ。起を射るに坐して宗を夷げられて死せし者七十余家。
-
『韓非子』孤憤第十一智術の士は明察にして、聴用せらるれば、且に重人の陰情を燭さんとす。能法の士は勁直にして、聽用せらるれば、且に重人の姦行を矯めんとす。
-
『韓非子』孤憤第十一是れ智法の士と當塗の人とは、兩つながら存す可からざるの仇なり。
-
『韓非子』六反第四十六政を為すは、猶ほ沐するがごとし。髪を棄つる有りと雖も、必ず之を為す。髪を棄つるの費を愛しみて、髪を長ずるの利を忘るるは、權を知らざる者なり。
-
『呻吟語』内篇・應務・徐徐として手を下す大を撼かし堅を摧くは、徐徐として手を下し、久久にして功を見、默默として意を留むるを要す。臂を攘げ力を極むれば、一たび手を犯して自家先づ敗る。