呻吟語 / 内篇・應務・與ふるを以て取と為す
譬之奕棋,只在輸贏上留心,一馬一卒之失渾不放在心下,若觀者以此預計其高低,奕者以此預亂其心目,便不濟事。況善籌者以與為取,以喪為得;善奕者餌之使吞,誘之使進,此豈尋常識見所能策哉?乃見其小失而遽沮撓之,擯斥之,英雄豪傑可為竊笑矣,可為慟惋矣。
新字:譬之奕棋,只在輸贏上留心,一馬一卒之失渾不放在心下,若観者以此預計其高低,奕者以此預乱其心目,便不済事。況善籌者以与為取,以喪為得;善奕者餌之使吞,誘之使進,此豈尋常識見所能策哉?乃見其小失而遽沮撓之,擯斥之,英雄豪傑可為竊笑矣,可為慟惋矣。
書き下し
之を奕棋に譬ふれば、只だ輸贏の上に心を留め、一馬一卒の失は渾て心下に放たず。若し觀る者此を以て預め其の高低を計り、奕つ者此を以て預め其の心目を亂さば、便ち事を濟さず。況んや善く籌る者は與ふるを以て取と為し、喪ふを以て得と為す。善く奕つ者は之を餌して吞ましめ、之を誘ひて進ましむ。此れ豈に尋常の識見の能く策する所ならんや。乃ち其の小失を見て遽かに之を沮撓し、之を擯斥すれば、英雄豪傑竊かに笑ふ可く、慟惋す可きなり。
現代語訳
碁にたとえれば、ただ勝ち負けだけに心を留め、一つの駒や一人の兵の損失はまるで気にしません。もし見ている者がそれで先に力量を測り、打っている者がそれで心と目を乱されれば、事は成りません。まして上手に計る者は、与えることを取ることとし、失うことを得ることとします。上手に打つ者は、餌を与えて呑ませ、誘って進ませます。これが並の見識で測れるでしょうか。それなのに小さな損失を見てすぐ妨げ、退けるなら、英雄豪傑はひそかに笑い、深く嘆くほかありません。
解説
大局を見る者と細部を見る者の断絶を、碁で説明します。上手は駒を捨てて勝ちを取り、餌を与えて誘い込む。しかし見ている側には、それが損失にしか見えません。そして小さな損を理由に止めさせ退ける、という現実が描かれます。長い目の戦略が短い目の監視によって潰される構図で、今の組織にもそのまま当てはまります。長い目の戦略が、短い目の監視に潰される構図です。
この章句が説くこと
大局碁捨て石監視断絶
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