呻吟語 / 内篇・應務・私恩を以て公典を奸す可からず
「父母在難,盜能為我救之,感乎?」曰:「此不世之恩也,何可以弗感?」「設當用人之權,此人求用,可薦之乎?」曰:「何可薦也?天命有德,帝王之公典也,我何敢以私恩奸之?」「設當理刑之職,此人在獄,可縱之乎?」曰:「何可縱也?天討有罪,天下之公法也,我何敢以私恩骫之?」曰:「何以報之?」曰:「用吾身時,為之死可也;用吾家時,為之破可也。其他患難與之共可也。」
新字:「父母在難,盗能為我救之,感乎?」曰:「此不世之恩也,何可以弗感?」「設当用人之権,此人求用,可薦之乎?」曰:「何可薦也?天命有徳,帝王之公典也,我何敢以私恩奸之?」「設当理刑之職,此人在獄,可縦之乎?」曰:「何可縦也?天討有罪,天下之公法也,我何敢以私恩骫之?」曰:「何以報之?」曰:「用吾身時,為之死可也;用吾家時,為之破可也。其他患難与之共可也。」
書き下し
「父母難に在り、盜能く我が為に之を救へば、感ずるか」。曰く、「此れ不世の恩なり、何ぞ以て感ぜざる可けんや」。「設し人を用ふるの權に當たり、此の人用を求めば、之を薦む可きか」。曰く、「何ぞ薦む可けんや。德有るに天命ずるは、帝王の公典なり。我何ぞ敢へて私恩を以て之を奸さんや」。「設し刑を理むるの職に當たり、此の人獄に在らば、之を縱つ可きか」。曰く、「何ぞ縱つ可けんや。罪有るを天討つは、天下の公法なり。我何ぞ敢へて私恩を以て之を骫めんや」。曰く、「何を以て之に報いん」。曰く、「吾が身を用ふる時は、之が為に死して可なり。吾が家を用ふる時は、之が為に破れて可なり」。
現代語訳
父母が危難にあり、盗人がこちらのために救ってくれたら、恩を感じますか。答えて言う。これは世に二つとない恩です。どうして感じずにいられましょう。では人を用いる権を持つとき、この人が任用を求めたら、推薦できますか。答えて言う。どうして推薦できましょう。徳ある者に天が命ずるのは帝王の公けの典です。私の恩でそれを犯せるでしょうか。では刑を司る職にあるとき、この人が獄にいたら、逃がせますか。答えて言う。どうして逃がせましょう。罪ある者を天が討つのは天下の公けの法です。私の恩でそれを曲げられるでしょうか。では何で報いるのですか。答えて言う。自分の身が要るときは、そのために死んでよい。自分の家が要るときは、そのために潰れてよい。
解説
この章句が説くこと
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『呻吟語』内篇・應務・策名の後、身已に我の有に非ず士君子天下國家の事に任ぜんと要せば、先づ本身を把りて除外す。所以に策名委質と說く。名を策してより後、身已に我の有に非ずと言ふなり。況んや富貴をや。若し富貴身家に營營たらば、卻って是れ社稷蒼生の我に委質するなり。君の賊臣か、天の僇民か。
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『呻吟語』外篇・治道・進賢舉才して自ら恩と為す賢を進め才を舉げて自ら以て恩と為すは、此れ斯の世の大惑なり。不肖を退くるの怨みは、誰か其れ之に當たらん。賢を失ふの罪は、誰か其れ之に當たらん。君の命を奉じ、己の職を盡くすに、公法私恩に廢れて、世を舉げて迷ふ。亦た悲しむ可し。
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『呻吟語』外篇・治道・其の應に得べき所を寬くす法の立つや、其の必至の情を體し、寬くして自ら生ずるの路あり、而る後に其の分を逾ゆるの私を繩す。則ち上に直色有りて下に心言無し。今や小官の俸は饔飧に供するに足らず。偶たま常例を受けて輒ち貪法を以て之を罷むるは、是れ小官終に設く可からざるなり。體を識る者は其の公を廣めて私を閉ぢんと欲す。而るに當事者は又た其の私を計る。某の常例、某の從來なりと。夫れ其の應に得べき所を寬くして而る後に其の不義の取を罪すると、夫の不義の取有るに因りて遂に應に得べきに儉なるとは孰れか是なる。蓋し倉官の月糧は一石にして、驛丞の俸金は歲に七兩と云ふ。
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『呻吟語』外篇・治道・吏は法を以て恩を巿る藏人は君の為に財を守り、吏は君の為に法を守る。其の守るは一なり。藏人藏を竊みて以て私を營むを、之を盜と謂ふ。吏法を以て恩を巿るは、盜と曰はざらんや。公法を賣りて以て私德に酬い、民財を剝ぎて以て厚交を樹て、恬然として以て當然と為すは、歎ず可きかな。若し吾が身家ならば、慨して以て人に許すも、則ち吾之を專らにするのみ。
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『呻吟語』内篇・應務・公の為に法を持するは則ち不可世に處するに常に厚きに過ぐるも害無し。惟だ公の為に法を持するは則ち不可なり。
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『呻吟語』外篇・治道・公を背き譽を巿り、國に負きて身を殖やす庶幾はくは其れ職に稱はんか。嗚呼、大丈夫に非ずんば孰か以て此れを語るに足らん。乃ち一人を用ふれば則ち聽を宰執の口脗に注ぎ、一人を退くれば則ち相公の眉睫を凝視するが若きは、公名を借りて以て私を濟し、實に士口を結びて民心を灰にし、公を背き譽を巿り、國に負きて身を殖やすなり。是の人や、吾之を道ふに忍びず。