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呻吟語 / 内篇・應務・因の一字は妙にして言ふ可からず

因之一字妙不可言。因利者無一錢之費,因害者無一力之勞,因情者無一念之拂,因言者無一語之爭。或曰:「不幾於徇乎?」曰:「此轉入而徇我者也。」或曰:「不幾於術乎?」曰:「此因勢而利導者也。」故惟聖人善用因,智者善用因。

新字:因之一字妙不可言。因利者無一銭之費,因害者無一力之労,因情者無一念之払,因言者無一語之争。或曰:「不幾於徇乎?」曰:「此転入而徇我者也。」或曰:「不幾於術乎?」曰:「此因勢而利導者也。」故惟聖人善用因,智者善用因。

書き下し

因の一字は妙にして言ふ可からず。利に因る者は一錢の費無く、害に因る者は一力の勞無く、情に因る者は一念の拂ふ無く、言に因る者は一語の爭ひ無し。或るひと曰く、「徇ふに幾からずや」と。曰く、「此れ轉じ入りて我に徇ふ者なり」と。或るひと曰く、「術に幾からずや」と。曰く、「此れ勢に因りて利導する者なり」と。故に惟だ聖人のみ善く因を用ひ、智者のみ善く因を用ふ。

現代語訳

因るという一字は、言い表せないほど妙なものです。利に因れば一銭の費えもなく、害に因れば一つの労力も要らず、情に因れば一つの思いも逆らわず、言に因れば一言の争いもありません。ある人が言いました。それでは迎合に近いのではありませんか。答えて言う。これは転じて相手をこちらに従わせるものです。ある人が言いました。それでは策術に近いのではありませんか。答えて言う。これは勢いに乗って良い方へ導くものです。だから聖人だけが上手に因るを用い、智者だけが上手に因るを用います。

解説

相手の側にあるものを使って動かす技術を、因という一字で示します。利、害、情、言。どれも相手が既に持っているものを起点にするので、費用も労力も摩擦も要りません。迎合や策術との違いも問答で示されており、行き先がどちらを向いているかが分かれ目になります。事に応ずる篇の中でも、最も実務的な一段です。應務篇の中でも、最も実務的な一段になっています。

この章句が説くこと

誘導摩擦迎合技術

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